――13年に夫が食道がんを患ったことも、夫婦の人生観を大きく変えた。

夫:お正月明けに、なんか調子が悪くなったんです。

妻:普段は風邪でも医者に行ったりしない人なのに「病院に行ってくる」って。すぐ内視鏡検査をして。そうしたらステージ4でリンパにまで転移してたんです。

夫:手術ができない状態で、外科の先生に「ああ、僕のところでもうやることないです」って言われて。

妻:え? これ、どうなるの?って。

夫:しばらく茫然自失の状態でした。

妻:私は「料理家の私の作ったものを食べていた人が病気になるなんて!」と二重にショックだった。彼は「勝手に好きなだけお酒を飲んでたし、君のせいじゃない」と言ってくれたけど。夫 手術ができないとなると、抗がん剤と放射線治療しかない。2月にすぐ放射線と抗がん剤治療が始まって。海外に留学していた娘も戻ってきて、もうダメかなと思ったんですが。

――想定外の寛解。治療開始2カ月半後にがんが消えたのだ。

夫:全10日間の抗がん剤治療と、30回で60グレイの放射線をあて、その1カ月後に、がんがなくなっていた。

妻:主治医の先生も「うーん!?」と唸ってしまった。その後いろんな検査をし直したんですけど。

夫:たぶん放射線の力なんでしょう。日本の西洋医学に感謝しています。

妻:あるドクターに言われました。病気には「運、勘、縁」があるって。

夫:縁は、病気になって以降に出会う医療スタッフと友人や家族。運は、同じステージ4でもできた場所によって放射線がうまく効いたということかもしれない。勘は、「いま何をすべきか」など心身の声を聞くこと。あの経験から「人間には100%の満足なんて訪れない。いま、このときの自分に納得しよう」と「足るを知る」ということを考え始めたんです。

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