かねてからメジャーリーグへの挑戦を表明している日本ハム大谷翔平選手。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、大谷がどんな契約を交わすか注目する。

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 日本ハムの大谷翔平の、ポスティングシステムを利用しての来年のメジャー移籍が現実味を帯びてきた。日本球界のスター選手が日本を離れることには残念な思いがあるが、時代は大きく変わっている。花巻東の時からメジャーの舞台でプレーすることを考えていた選手である。メジャー移籍をするのなら、自信を持って自分の実力を発揮してほしいと思うよね。

 ルールに関してはいろいろと論じられている。米国の規定は日本から見れば、なじみが薄いものが多い。だが、まずポスティングシステムは絶対になくしてはならない制度であると思う。FA権を取得するまでの期間、メジャーに行けないとしたらどうなるか。日本のプロを経ないでメジャーを志す将来有望な高校生が増えてしまうだろう。そうなれば、日本は流出を防ぐために、FA期間を現行よりも短縮しようという動きにつながってしまうかもしれない。

 苦しくなるのは球団である。ドラフト制度、FA制度のバランスを維持する上で、ポスティングシステムは大事な要素であると考える。

 その前提に立って考えたいことがある。今回の大谷のポスティングシステム利用で日本ハム球団にいくらの譲渡金が入るかということよりも、大谷がどんな契約をするかである。つまり、メディアで論じられているような「25歳未満の海外選手はマイナー契約しかできない」という本来アマチュア選手に適用される規定に大谷が該当するのであれば、問題である。

 
 大谷クラスが、年齢が若いがゆえに年俸1千万円程度のマイナー契約しか結べないなら、今後25歳未満でメジャー移籍を目指す日本の選手は減ってしまうだろう。

 今季の大谷の推定年俸を考えれば、何十分の一だ。メジャー昇格しても最低年俸の5千万~6千万円しか手にできないという。しかも他の新人選手と同じ扱いになるわけだから、6年間は球団に保有権がある。実際に大谷が実力に見合う金額を手にするのは、FA取得直前の4~5年先だと指摘する米メディアもある。

 最終的な制度や、大谷の契約がどうなるかは、現時点ではわからない。ただ、経緯、過程は日本球界で注視していく必要がある。野球の国際化が叫ばれる時代。とりわけ大リーグとの関わりは、今後の日本球界に大きく影響する。

 もちろん、日本としては、金の卵の海外流出を防ぐための努力も必要になる。地道な作業になるが、育成システムの充実は不可欠だ。「ウチの球団に来れば、これだけ成長できます」という魅力ある成功例を、12球団が数多く作らないといけない。

 日本ハムで残り何試合に投げ、そして何打席に立つかはわからないが、大谷は日本の宝、世界の野球の宝といえる選手である。誰もが納得する形で、ファンも、野球界への道を夢見る未来の少年少女も、希望を持つことができる道はないものだろうか。

週刊朝日 2017年9月29日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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