妻:そうだったの?

夫:でもあなたが、「自分ひとりで育てるから籍は入れなくていい」って言うから「あら、便利」と思って。私の父には「学校へ行ったりすると差別もあるから、子どもは籍に入れたほうがいいよ」と言われたんです。それで登久子さんの父親に、「子どもだけ籍に入れていいですか?」と言ったら、「書類をそろえてあげるから印鑑を持ってきなさい」と。義父から書類を受け取って印鑑と一緒に区役所に出したら、受付の人が「ご結婚おめでとうございます」って言うんですよ。書類に婚姻届も入っていたみたいで、「やられた!」と思いましたね。

妻:私は結婚とか考えてなかったんです。38歳で高齢出産だったから、元気な子どもが生まれることが第一で、その先のことはなんとかなるだろうと思って。父は心配していましたけど、「私の人生は私が決める。おかしくなったら自分で始末をつけるから」と言ったら引き下がりました。

――87歳で亡くなった夫の母親は、息子だけでなく嫁にも厳しかった。しかし妻は対応がうまく、波風が立つことはなかったという。

夫:父から「他に子どもは何人いるのか?」と聞かれ、「子どもをつくる気はなかったから初めての子です」と言ったら、「今までの女はぜんぶ清算してあるのか?」って。「みんなほったらかし」と正直に答えたら、「お前がどういうふうにするのか見てみたいもんだ」って言うんですよ。

妻:そういう対応は実にうまいと思います。後腐れがないように。

夫:それまで付き合った人は何人か遊びに来たけど、登久子さんを見てすごすごと帰っていきました。逆にお友だちになりたがる人もいたけどね。

妻:島尾はなぜだかモテたんですよ。今だとセクハラになるんでしょうけど、すれ違いざまにお尻を触ったりしても、ちゃちゃを入れたりして、口がうまいから。

夫:登久子さんといると楽しいから一緒にいる時間がどんどん長くなって、いつの間にか一緒に暮らすようになっちゃった。私は本当は、大家族が好きなんですよ。夫婦だけでいがみ合うより、10人も20人も家族がいてごちゃごちゃしているほうがいい。諍(いさか)いもその中で吸収されるでしょう。だから、この人が赤ちゃんと住む家を探していたとき、どちらかの両親の近くに探すようにしたんです。

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