「家族や知り合いから勧められた人がほとんどです。『市販されている薬はMCIや認知症を改善するものではなく、必要な治療はこちらで行っていますのでご安心ください』と言って、了承していただきました」

 受診して相談するのであればまだいいが、本来なら受診しなければならない人の受診が遅れる可能性も危惧される。このため、「厚生労働省もメーカーに対して、その部分はしっかり説明するようにと指示している」(前出・製薬会社関係者)という。

 良性健忘は、加齢により神経細胞が徐々に失われていくことで生じる。とくに海馬など記憶と関係する部分は加齢の影響を受けやすいため、年とともに忘れっぽくなる。一方、アルツハイマー病などの認知症は、アミロイドβなどの異常たんぱくの蓄積が発症に関わっているとされ、神経細胞が壊れて、脳が萎縮する。良性健忘は日常生活に支障をきたさないが、認知症は理解や判断能力が低下するため、日常生活を送ることが次第に困難になっていく。

 ほかにも、ストレスや仕事に追われて手いっぱいになっているときなどは、集中力が欠けて、もの忘れを生じやすい。またうつや甲状腺の病気などでもの忘れを起こすこともある。

「もの忘れの原因はさまざまということ。その症状が認知症によるものか、良性健忘か、あるいは別の病気が原因で起こったものか、一般の人にはわかりにくい。やはり不安な方は一度、専門の医療機関で調べてください」(井関さん)

 とはいえ、中高年層が増える今後、もの忘れの分野ではさまざまな商品が出てきそうだ。例えば今月上旬にはロッテが「歯につきにくいガム〈記憶力を維持するタイプ〉」を機能性表示食品として発売した(粒タイプ12粒、板タイプ9枚・オープン価格)。こちらはオンジではなく、イチョウ葉抽出物が入っている。

「高齢化のなか、ガムの購入層も徐々に変化しています。中高年層のニーズを調査した結果、特に脳機能関連のニーズが高いことが判明したため、商品開発を行いました」(ロッテ広報室)

 一方で、「こうした商品に頼るだけでなく、生活の改善とセットで考えて」と、北里大学東洋医学総合研究所の漢方鍼灸治療センターのもの忘れ外来で患者を診ている前出の川鍋さんは助言する。

「ストレスや睡眠不足、ミネラルの異常などがあるともの忘れを起こしやすい。加齢は避けられない現象ですから、そのほかの食事や運動、減量などでもの忘れをしにくい体質に変えていくことも大事です」(川鍋さん)

週刊朝日 2017年9月22日号