<レディ・ジェーン・グレイの処刑> ポール・ドラローシュ 1833年 油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 Paul Delaroche, The Execution of Lady Jane Grey, (c)The National Gallery, London. Bequeathed by the Second Lord Cheylesmore, 1902
<レディ・ジェーン・グレイの処刑> ポール・ドラローシュ 1833年 油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 Paul Delaroche, The Execution of Lady Jane Grey, (c)The National Gallery, London. Bequeathed by the Second Lord Cheylesmore, 1902

 作家・独文学者で西洋史や芸術に精通している中野京子さんに、想像を働かせると怖くなる絵について、教えてもらった。

【フォトギャラリー】少女はこのあと… 想像すると「怖い」絵

■《レディ・ジェーン・グレイの処刑》 ポール・ドラローシュ 1833年 油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 

「ジェーン・グレイはこの時16歳4カ月。薬指には真新しい結婚指輪が光ります。まだギロチンが発明されていないので、首置き台で斧の一撃を受けるのです。人々はこの先を想像しながら見たのです。動画のなかった時代、絵は動いて見えたでしょう」と中野京子さん。感性で見るばかりでなく、絵の背後にある歴史や物語を想像して見てみてはいかがだろうか。

ヘンリー8世の姪の娘だったために周囲から強引に王座につけられ、イングランド初の女王となったジェーン・グレイ。9日後には、後のメアリー女王一派に反逆罪で捕らえられ、改宗すれば命だけは助けてもいいとの提案を拒んで毅然として処刑台へ上った。

■《殺人》
ポール・セザンヌ 1867年頃 油彩・カンヴァス リバプール国立美術館蔵

2人の男が女性の身動きを封じ、ナイフを振り上げている。描き手はセザンヌで、ここには「女性水浴図」にあるやすらぎや、「リンゴとオレンジのある静物」の持つ静けさはない。「セザンヌが若いころ短期間とはいえこうした暴力的な絵やエロティックな絵を数多く描いていたことは、あまり知られていません。しかし凶暴さ剥き出しの本作は、セザンヌという画家の別の魅力を教えてくれているのではないでしょうか」(中野さん)

■《クレオパトラの死》
ゲルマン・フォン・ボーン 1841年 油彩・カンヴァス ナント美術館蔵

左手前、白いベッドのシーツの部分をよく見ると、茶色い蛇がいるのが見える。これはクレオパトラが猛毒を持つアスプコブラに自らを噛ませ命を絶つ、その瞬間を描いたもの。権力争いに敗れたクレオパトラが、敵に無残に殺されるのではなく、美しいまま死にたい、という願いがかなう場面でもある。「真偽は定かではありませんが、この神経毒を持つアスプコブラにいきつくまで、何人もの奴隷に毒のテストをしたと伝えられています」(中野さん)

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