近隣住民の苦情を受け、祖傳氏が70代の男性の自宅に駆けつけた。男性は認知症ではないようで、普通の受け答え。道路側に飛び出た枝を切り落とすうちに、異様な光景が現れた。木の葉で隠れて道路側から見えなかったが、敷地内に廃材などが積まれていた。

 祖傳氏は「塀にハシゴがかかっていたので、『ちょっと登らせてください』と上がると、敷地内は建設資材のゴミで埋まっていました」と振り返る。

 男性は建設関係の仕事をしていたため、廃材を自宅に持ち帰って保管していた。放置してたまり続け、いつしかゴミ屋敷に。男性は神奈川県内の甥の近くへ引っ越すことになり、自宅を売却して、撤去費用を捻出できた。

 こうした隠れゴミ屋敷の段階で気づけないと、本当のゴミ屋敷となってしまう。

 特別養護老人ホーム(特養)で現在暮らす80代男性の自宅は、かつてゴミ屋敷だった。

 今は家を取り壊して駐車場になったが、当時は自宅前のゴミから缶ビールの残汁などが異臭を放ち、虫やねずみがたかった。

 男性は元々商売を営んでいたが、妻に先立たれて店をたたんだ。生活費の足しにするため、スチール缶や鉄くずを拾い集めて自宅で保管したことが、ゴミ屋敷へとつながったようだ。

 片付けるように言われると、「近寄るな!」と男性は怒鳴る。「危ない人」と近所からも煙たがられるように。祖傳氏らは男性の娘に状況を説明し、一度はゴミを片付けてもらった。しかし、しばらくすると、またゴミ屋敷に戻った。

「精神科の受診を勧めても、服薬を管理できず症状が悪化していました。検査入院して認知症と診断され、ほかの疾病も発見。入院中に介護認定を受け、特養へ入居しました。男性を後日訪ねると、人が変わったようにいきいきとした笑顔。入居者のリーダー的存在になったようで、『よかったですね』と声をかけたら、にっこりとうなずいていました」(祖傳氏)

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