男の家の裏に置かれていた「餌」。どこにでもいそうな普通の人物が、底知れぬ闇を抱えていた
男の家の裏に置かれていた「餌」。どこにでもいそうな普通の人物が、底知れぬ闇を抱えていた

 何が男を残虐行為に走らせたのか。

 警視庁は8月29日までに、さいたま市見沼区の税理士の男(52)を動物愛護法違反の疑いで逮捕した。男は埼玉県深谷市の廃屋周辺で、鉄製のオリに閉じ込めたに熱湯を浴びせたり、ガスバーナーで焼くなどして殺した疑いが持たれている。男は行為を録画し、ネット上に投稿。匿名の掲示板サイト上の動物虐待マニアが集まるコミュニティーでは「カルおじ」と呼ばれ、もてはやされる有名人だった。

 男は少なくとも13匹の猫に同様の行為をしたと認めているが「自分がしたことは有害動物の駆除で、法律違反とは考えていない」などと話しているという。

 男は昨夏から、前代表の死去に伴い後継者を探していた埼玉県北本市内の税務会計事務所を継承して経営者となっていた。事務所の関係者がこう語る。

「税務署に長く勤め、5年ほど前に税理士資格をとり独立したそうです。そつなく仕事をこなし、先代からの顧客や部下からの信頼も築きつつあった。カメラが趣味とは言っていたが、おかしな兆候は何もなかった」

 男には妻と子どもが2人いたという。2年前に見沼区に家を新築し家族で越してきたが、数カ月後に再び引っ越して以降、新居は事務所として男だけが通っていた。近所の男性が言う。

「おとなしそうな性格でしたが、実家でとれたタケノコを分けてくれるなど、普通に近所づきあいをしていた。そういえば昨年ごろ、温水器のパイプを野良猫に壊されたようで、それ以来、なぜか『餌』のようなものを近くに置いていた。『あれ何ですか』と近所の人が聞いても口ごもって答えなかったそうです」

 男の家の裏にある温水器のパイプには猫が引っかいたような傷があり、カバーがはがれていた。周囲には「猫よけ」の剣山が敷かれ、肉のすり身やつくだ煮のようなものがプラスチックの容器に入れて今も置かれていた(写真)。猫をおびき寄せる「餌」だろうか。

 動物愛護法に詳しい渋谷寛弁護士がこう語る。

「猫などをみだりに殺す行為は2年以下の懲役か200万円以下の罰金と定められていますが、過去の虐待死事件の判例を見ても初犯では執行猶予がついて実刑にならないことが多い。今後は厳罰化や、ネット上で犯行をあおった人にも幇助罪を適用するなどの対応も必要かもしれません」

(本誌・小泉耕平)

週刊朝日 2017年9月15日号