作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、性産業で働く人の「お客の国際比較」が興味深かったと話す。

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 ドイツのとある街で売春宿を経営している女性と話す機会があった。

 ドイツは売春を2002年に「合法」にした。公序良俗の観点から悪とされていた売春を正当な労働として認め、強制売春のみを処罰するようになったのだ。私が出会った女性は合法化以降にこの仕事に就き、30代の今はオーナーとして売春宿を経営する側に回った。ところが今年の夏、今度は業者や働き手が行政に登録しなければならない法律が施行されることになった。これによって、働く女性が医療サービスを無料で受けられる一方、行政に登録することのリスクから、仕事を続けられなくなる女性も多いと言われている。実際彼女のお店でも、絶対に周囲に知られたくない女性は辞めていったという。

 ネットで性売買について日本語で検索すると、売春合法化が世界の流れ! 日本もそうすべき!みたいなことを書いている人が多いのだけど、実際にドイツで現場の人に話を聞くと、「ヨーロッパは、性売買を規制する方向に向かっている。仕事はますますやりにくくなる」と語る人は少なくない。実際、フランスも去年、買春者を厳しく処罰する法律を施行している。

 そういう流れのなかで、では日本はどのように性売買を社会として考えていくべきなのだろう。現場はどのように考えているんだろう。そんなことを知りたくて、性産業で働く様々な人に今、話を聞いているのだけど、今回、その彼女が語ってくれた「お客の国際比較」の話が興味深かったので紹介したい。

 
 彼女の店には様々な国の客がやってくる。彼女が言うには、買春行為には「お国柄」が出るという。例えばスウェーデン人は最初から最後までびくびくしている。「警察は来ないよね、ほんとにここは合法なんだよね」と何度も念を押してくる。1999年に買春者を処罰する法律が施行されたスウェーデンの男として当然の反応かもしれない。アメリカ人の男は「健康」に最も重きを置く。「君、病気じゃないだろうね」と何度も確認し、行為の後にシャワーを1時間浴びるとか。で、日本人。いいお客よ~とのこと。金髪で胸の大きい女性が好きで、女性が強い口調で何か言っても「はいはいはい」(←彼女が日本語で言った)と従い、行為前にシャワーを20分、行為に20分、行為後のシャワーを20分と、時間計算をキッチリやっている客が多くて、とっても楽よ~、と。

 国別に少し大げさに面白おかしく彼女は話してくれたんだけど、その場にいた女たちは大声で笑った。すごくリアルに想像がついたのだ。ちなみに、この話をすると「日本人男性ってもてるのね」と言う人がいて驚いたのだけど、そうではなく、スウェーデン男性の例が示すように、日本人男性がいかに性売買に慣れているかという話だと私は理解した。

 そんなこんなで、性売買の現場の旅、思わぬところで知らない日本人男性の顔を見た気がしました。取材はこれからも続く。時々ご報告していく予定~。

週刊朝日 2017年9月8日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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