通常の狭心症では動脈硬化が進んで心筋梗塞を合併したり、発作で心臓に血液が不足する心筋虚血が長時間続いたりすることで、突然死が起こるリスクが懸念されている。一方、微小血管狭心症ではこうしたリスクは少ないといわれてきたが、「放置しておくと危険がある」という専門家もいる(後述)。この点については今後の研究が待たれるが、病気とわかったらきちんと治療をすることが大事といえる。

 微小血管狭心症の治療は薬物療法が中心で、カルシウム拮抗薬が有効であることがわかっている。ニトログリセリンに比べ、収縮した微小血管を広げる作用が高いという。

 東京都在住の会社員、石田杏子さん(仮名・44歳)は定期的に起こる胸痛と顎から耳にかけての痛みに悩まされていた。近くの医院では逆流性食道炎と診断されたが、薬を飲んでも一向によくならない。総合病院の循環器内科で心臓カテーテル検査や心臓エコー検査を受けたが、異常は見つからなかった。

 休職を考えていたところ、夫が雑誌で、「微小血管狭心症」について書かれている記事を見つけた。「症状がそっくりだ」と、記事に出ていた天野医師を受診。カルシウム拮抗薬を服用し、天野医師の指示に従って、生活習慣にも気をつけるようにしたところ、発作がおさまり、現在も仕事を続けることができている。

「発作を繰り返していると精神的にも不安になりますし、QOL(生活の質)の低下にもつながります。疑わしい症状があったら躊躇(ちゅうちょ)せず、受診の際には医師に『微小血管狭心症ではないでしょうか?』と聞いてみることをおすすめします」(同)

 診断が難しいとされてきた微小血管狭心症だが、一部の病院では最先端の検査法が実施されている。太い冠動脈のけいれんによって起こる冠攣縮性狭心症の検査を応用した方法だ。心臓カテーテルを使っておこなう。この研究の第一人者である東北大学病院循環器内科教授の下川宏明医師はこう言う。

「胸痛の原因がどこにかかってもわからず、この検査でようやく診断がついて安心したという患者さんが多いです。現在、保険承認の申請中です」

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