開幕前は“清宮不在”と騒がれたものの今年も数々のドラマが生まれた甲子園西武の元エースで監督経験もある東尾修氏は投手出身だからこそ、あえて言いたいことがあるという。

*  *  *

 高校通算107本塁打の清宮幸太郎擁する早稲田実が西東京大会で敗れ、甲子園の注目が半減……なんてことはなかった。選手は心技体に全力を尽くし、多少ミスが出て勝敗につながったとしても、やはり高校生活を費やしてきた野球にぶつかる真剣な姿勢は見る者を感動させた。いろんな議論があるけど、まずは野球に純粋に向き合い、見る者の心を震わせてくれたすべての球児に感謝したい。

 その上で。今大会は68本塁打が生まれた。これまで最高の60本塁打を8本も上回ったという。中軸だけでなく、下位打線の選手の一発も特に多く感じた。どの選手もスイングスピードが速い。科学的なトレーニングを導入し、体幹から強くなっていることを実感した。プロの世界でも、メジャーの世界でも打高投低となっているが、高校野球もそう感じさせた。

 ただ、私は投手出身だから、あえて言いたい。投手は超高校級といえる速球を投げ込む投手がいなかった。力でねじ伏せられる投手が少なかったよね。ピンチを迎えて制球力が上がるような投手も少なかった。灼熱(しゃくねつ)の甲子園とはいえ、打者を見下ろして投げられるような投手がいなかったのは気にかかるな。今年だけがそういった投手が少ない……と割り切ってしまうと、投打の差は広がる。今の1、2年生は「圧倒する」という意識で修練をしてほしい。

 
 今大会で6本塁打を放ち、清原和博の記録を超えた広陵の中村奨成捕手には本当にたまげた。トップの位置が高く、150キロを超える速球が来た時に振り抜けるのかという部分があるが、高校生レベルでは、どんな球に対しても振り切る形ができている。何より、地肩の強さ、バント処理などのフットワークの良さはプロでも上位にあるだろう。捕手というポジションは打つだけでは駄目だが、肩、フットワークは問題なく、あとはリード面。手をつける要素が少ないのは大きな利点だ。体がしっかりできれば1年目から1軍に定着してもおかしくない逸材である。中村選手は「球界を代表する捕手が目標。球界の記録をつくれるような選手になりたい」と言ったが、こんな大きなことをプロ入り前から目標としてとらえる選手がいる。本当に感心した。

 清原和博も久々にメディアに登場した。こういった形でしかまだ取り上げてもらえないだろうし、本人が犯した過ちは一生かけて償っていくべきものだが、彼の残した野球界の足跡すべてが消えるわけではない。中村選手のおかげで、また清原という野球人が日の目を見た。清原自身も感謝しなきゃいけないし、私もチームメートとして西武で清原とプレーした身。彼の姿を間接的にも見られて、少し安心した。

 話を戻すけど、この大会を見て、監督の考え方にも変化を感じた。絶対的なエース不在だったこともあるが、2~3人の投手を駆使することが当たり前になった。終盤勝負になることが多く、七~九回の1アウトをどうやって取るかを考えた継投が多かった。打撃でも安易にバントはしない。2番打者に強打者を置くチームもあった。プロ野球界の流れが高校野球にも浸透している。「まずは得点圏に走者を」という考えでは、夏の大会は勝ち抜けないのかもしれない。

週刊朝日 2017年9月8日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら