作家・室井佑月氏は、自分の政治的信条について「左も右もないんだけどな」という。

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 8月15日、終戦の日は靖国神社に参拝に行ってきた。

 その2日前にNHKスペシャル「731部隊の真実 ~エリート医学者と人体実験~」を見たら、どうしても行きたくなった。

 戦争って最悪だ。人間を悪魔に変える。

 靖国神社のホームページには、

〈国を守るために尊い生命を捧げられた246万6千余柱の方々の神霊が、身分や勲功、男女の別なく、すべて祖国に殉じられた尊い神霊(靖国の大神)として斉しくお祀りされています〉

 と書かれてあったしな。

 海外から、この国の閣僚たちの靖国神社参拝が問題視されているのは、A級戦犯が合祀されているからでしょ。

 たしかに、無謀な戦争を企て、たくさんの罪のない人々を巻き込んで殺した指導者たちは酷(ひど)い。憎いとさえ感じる。

 が、それ以外の、「靖国で会おう」といって遠い戦場で死んだ兵士たちも祀られているわけで、あたしはこの方たちの御霊に、

「どうか戦争が起きませんように。平和な世がつづきますように。見守っていてください」

 と手を合わせた。

 一般の列に並んで参拝の順番を待っていると、カメラクルーを引き連れ、のぼりを掲げた議員団に出会った。

 この人たち、なんで集団で参拝しなきゃなんないの? つーか、この国の閣僚たちも、なんで記帳簿に、自分の役職名を書くのかな?

 
 もしかして、選挙のことを考え、ある種のアピールだったらいやらしくないか?

 凄まじい死に方をした人々に対し、敬意もなにもあったもんじゃないと思う。

 さて、靖国神社を参拝していると、顔バレしてしまって、おなじく参拝していた人たちから、「室井さんですか? 一緒に写真を撮ってください」などといわれた。それだけじゃなく、

「室井さんがこの日、ここにいらっしゃるなんて、感激です」とも。

 その言葉の裏にあたしは、

(左がかっている発言が多い室井さんが……びっくり!)

 みたいなものを受け取った。あたし自身、左も右もないんだけどな。

 ただ、安倍首相のやり方が嫌いで、第1次安倍政権からずっと批判してきた。そしたら、いつの間にか、「左翼」とか「売国」とか「アカ」とかいわれるようになった。一部の人たちに。

 戦争は絶対反対で、行きすぎたグローバル主義は反対で、縁の下の力持ちである自衛隊の方々を尊敬していて、経済より心の豊かさのほうが大事だと思っていて、今の天皇陛下は好きで、安倍首相が嫌い。それだと左になるんかい? 意味がわからん。

 わかっているのは、安倍さんの悪口をいうと、うるさく罵る集団がいること。天皇陛下をいじめてるのも安倍さんじゃないの?

 それって、あたしの知り合いの保守の人とは違う。一種のカルトだと思う。

週刊朝日 2017年9月8日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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