北朝鮮のミサイル開発の動きから緊迫した状態が続く米朝関係。ジャーナリストの田原総一朗氏は両国の思惑から衝突を回避する糸口を探る。

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 信用できる、とはどういうことなのか。その難しさをあらためて痛感している。

 韓国の文在寅大統領は、訪米してのトランプ大統領との会談でも、その後も、懸命に「北朝鮮のミサイル発射や核実験はやめさせる。そのかわり、米韓合同軍事演習はやめよう」と訴えていたようだ。

 この合同軍事演習は、8月21日から31日まで行われ、ハリス米太平洋軍司令官によれば、「コンピューター・シミュレーションを利用した防衛目的の演習」で「即応態勢を強化し、地域を防衛し、朝鮮半島の安定を維持するのが目的だ」ということだが、実は北朝鮮が一切秘密にしている電子機器基地を攻撃することが目標の一つになっていて、そのために北朝鮮が非常に神経質になっているのだと言われている。現に2014年以降の合同演習時には、北朝鮮は短距離弾道ミサイルなどを断続的に発射している。

 とくに、7月に北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を連続発射して、米朝間の緊張は一挙に高まった。いつ火を噴いても唐突ではない。

 だからこそ、文大統領は懸命に合同軍事演習をやめよう、と訴えたのだ。当然ながら文大統領は、北朝鮮側にも打診しているはずである。

 北朝鮮の反応はわからないが、米国は合同軍事演習をやめることを拒んだのだ、と韓国政府要人が漏らしている。

 なぜ、米国は合同軍事演習をやめることを拒んだのか。米国と北朝鮮の事情に詳しい元外務省幹部が、「米国政府は北朝鮮をまったく信用していないのだ」と説明した。

 なぜ、北朝鮮をまったく信用していないのかと問うと、その原因は「6者協議にある」と答えた。

 03年、核拡散防止条約(NPT)を脱退した北朝鮮に対し、核開発放棄を求めるために、日本、米国、中国、ロシア、韓国、そして北朝鮮による6カ国協議が設けられた。もっとも、日本政府は北朝鮮を国家として認めていないので、「6者協議」と呼んでいるのである。

 
 だが、北朝鮮は5カ国には秘密で核開発を進めていて、06年10月9日に第1回の核実験を、さらに09年5月25日には2回目の核実験を行った。5カ国は、いわば北朝鮮にだまされたのである。

 6カ国協議は08年12月で中断された。5カ国は、いずれも北朝鮮に不信感を抱いたが、なかでも米国の怒りは強烈だった。

 北朝鮮は、何よりも米国との会談を求めていて、そのために設けられたのが6カ国協議だったからだ。

 米国は、北朝鮮をまったく信用していない。だから、文大統領の懸命の訴えを拒んだのである。

 もっとも、米国のティラーソン国務長官は「北朝鮮の体制転換は求めない。政権の崩壊を企図しない。朝鮮半島の統一を加速する意図はない。米国が38度線を越えて軍を派遣することはない」と述べている。ただし北朝鮮の核放棄が条件である。

 一方、北朝鮮側は米国に届く「核ミサイル」が、米国から攻撃されないための唯一の手段だと信じ込んでいる。それを持たない限り、イラクやアフガニスタンのように米国につぶされると思い込んでいるのである。

 本当は、新しい6カ国協議を設けるべきであるが、米国と北朝鮮をどのように説得すれば良いのか。極めて難しいが、米朝の衝突を回避するためには、なんとしても必要である。

週刊朝日 2017年9月8日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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