清水の豪速球は、冬場に毎日、90メートルの遠投を繰り返したことで生まれた。決勝戦では彼の積み上げた努力の結晶である豪速球を見てほしい。

 清水は広陵の中村について「すごいすっね」と、笑ったが、「でもホームランを打たれても焦らず攻めたい。対戦するのが楽しみです」。

 打線も2本塁打の4番野村佑希を中心によく振れている。ここまで5試合で計47得点だ。走攻守に高いレベルでまとまっている。

 埼玉県勢の決勝進出は24年ぶり、第75回大会で春日部共栄が育英(兵庫)に敗れた埼玉県に夏の深紅の大優勝旗が渡ったことはない。岩井隆監督は、広陵中村について、「よく飛ばす。でも選手に逃げるようなことはさせない」と真っ向勝負を誓った。

 さて、決勝戦の前夜、私には必ず行う儀式がある。ひとりホテルの部屋に籠もって、決勝戦のスコアを順番に五つぐらい予想するのである。左右に対戦校の名前を書き、その間に選手の戦力分析などをして、予想スコアを記していく。

 当てたこともあれば、外したことも、もちろんある。

 今でも覚えているのは第86回大会の済美―駒大苫小牧の決勝戦で、私の第1予想は「済美7‐3駒大苫小牧」だった。2番目が「済美10‐0駒大苫小牧」。済美が圧勝すると考えていた。結果はご存じの通り、「済美10‐13駒大苫小牧」である。

 しょせん、記者がいくら取材しても甲子園の女神の胸の内などわかりっこない。

 だからこそ、甲子園は面白いのだ。大人の賢しらな知恵など働かせずに、選手たちの裸の魂のぶつかり合いを刮目せよ。(ノンフィクションライター・神田憲行)

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