妻:一番のきっかけは、あの、海外ロケじゃない?

夫:ああ、そうだ!

妻:テレビの仕事で、ヨーロッパへ行ったんですよ。この人、外国が嫌いでね。

夫 とはいえ仕事だし、仕方がない。で、彼女に付き人がわりに来てもらって。

妻:無事収録が終わって帰国することになったんですが、帰りは皆さんバラバラだったんです。私たちだけ、スタッフに見送られて飛行機に乗ったんだけど……。

夫:直行便だとばかり思ってたら違っていて。

妻:フランクフルト経由、モスクワ経由……。何の説明もなかったもんだから、乗り継ぎであたふた。

夫:僕は英語なんて読むことも話すこともできない。

妻:私があれこれ人に尋ねたりしてなんとか無事に乗り継いで帰国できた。それで、こいつは頼りになるって思ったんじゃない?

――正義感の強い夫芸能記者を追い回した?

妻:彼の実家はお芝居を家業として、世間から見れば変わった家ってことになるんでしょうけど、明治生まれの私の父はかなり破天荒な人でしたから。私からすれば、彼の家族のほうがよっぽど真面目でしたよ。

夫:芝居と言うと、特殊なしきたりだらけの世界みたいに思われてるけど、実際にはそんなことないですよ。歌舞伎界も「梨園の妻」と特別視されるけど、何なら三田(寛子)さんに聞いてごらんなさいよ(笑)。

妻:そうねえ。

夫:ただ、歌舞伎の世界ではね、役者の女房は劇場のロビーでごひいきさんにあいさつをする。そういう作法はありますよ。でも、私ら大衆演劇は、奥さんが劇場で顔を出すのはご法度。

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