──たとえ時代が移り変わっても、高校野球には昔も今も変わらない普遍的なドラマがある。一方で、取り巻く環境が変化し、野球そのもののスタイルが変わってきた現実もあります。

渡辺:私が監督だった時代に甲子園で対戦したことがある健大高崎(群馬)は、「足」を前面に押し出す野球をします。93回大会(11年)の2回戦で戦ったときは、その得意の足を絡めた攻撃をされて試合はもつれました。足を警戒する中での心理戦でもありました。走者に出てすぐに盗塁をしたり、サードゴロで二塁走者がホームを奪ったりする健大高崎のような走塁術は、いまや高校野球の中で新しい野球のイメージとして浸透しています。その対策として、ピッチャーはクイックで投げる練習をしたり、投球のインターバルを変えたりする工夫が必要です。そういうことを普段の練習からやっていないと対応できない。足を封じるための守備の練習を日頃からやっておく必要があります。

荒木:足を使ってくるチームに対して、私がピッチャーなら、あまり意識しすぎずに、割り切って投げるでしょうね。自分のピッチングが乱れることが一番悪いことですから。渡辺さんがおっしゃるとおり、対策や準備はもちろん大切になってくると思いますが、走られたら「しょうがない」という、ある種の割り切りは必要だと思います。

渡辺:健大高崎の野球のように今の高校野球では戦略や技術的にかつてとは違う野球が生まれてきています。それを楽しむ野球ファンも多い。これからさらに新しい野球を考え出す指導者が出てくるかもしれない。ただ一方で、昔のようにオーソドックスな野球、たとえば打ち勝つ野球を楽しみにしているファンもいます。どちらのスタイルにしろ、高校野球にはいろんな楽しみ方がありますし、それぞれの戦いにドラマが潜んでいると私は思います。

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