東京五輪の日本代表監督に就任が決まった稲葉篤紀・前日本代表打撃コーチ。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、監督経験がなくても問題がない理由を語る。

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 野球日本代表、侍ジャパンの監督に稲葉篤紀の就任が決定的になっているという。このコラムが読者に届くころには、発表されているかもしれない。2020年の東京五輪の金メダルを目指すという意味では、賛否の意見もあるだろう。

 私としては稲葉の監督就任に賛成だ。私が侍ジャパンの投手総合コーチを務めた13年の第3回WBCでも、主将の阿部慎之助をバックアップし、チームの雰囲気づくりに尽力してくれた。裏表がない。野球に対する姿勢も兼ね備えた人格者であると感じる。

 監督経験がないという点を指摘されると思うが、それは言い換えれば、決断するための引き出しが乏しいということだ。だが、今年3月のWBCを指揮した小久保裕紀監督は、球団の監督経験はなかったが、就任から3年以上が経過し、見事なまでに局面の決断を行い、チームを動かした。

 代表チームは各球団の主力選手が集まる。監督にできることは年間143試合を戦う球団監督よりも少ないよ。適材適所の起用という側面はあるが、その選手を送り出したら、「信じる」ことが根幹にある。采配で細かに動かすことばかり考えれば、選手の本来持つ能力、積極性をそいでしまう可能性がある。

 それよりも代表監督としてはまず、12球団の選手を観察する努力が必要だ。球場に足を運び、テレビで12球団の選手の動きをチェックする。代表監督は3月と11月しか指揮は執らない。ならば、それ以外の10カ月、代表候補選手の動きをどれだけ観察できるか。現場に足を運んで選手とコミュニケーションを図る必要だってある。何より情熱が必要になる。

 しかも、野球界は「10年ひと昔」という言葉が通用しないほど、急速な革新、進歩がある。動くボールの質もそう。その対応も日進月歩だ。若い選手と同じ「もの差し」で野球を見るには、若い指導者がいいに決まっている。

 
 だからこそ、12球団と日本野球機構(NPB)は、監督を全面的にサポートしてもらいたい。監督の待遇も含めてだ。監督が「あの試合を見に行きたい」といったら、旅費などの手当てはもちろん、球団側も選手をチェックしやすいネット裏に案内してほしい。コーチの人選もそう。監督が参謀としてほしい人材を必ず入閣させてほしい。

 東京五輪で金メダルを最優先課題とするなら、球団の利益を度外視してでも各球団は「代表ファースト」で考えるべきである。そして、サポート態勢を築いてもらえたなら、監督もえり好みはしてはいけない。協力してくれるスポンサー、マスコミの対応、あらゆる面で努力してほしい。

 11月には年齢制限のある韓国、台湾との国際試合がある。まずは3年後を見据えた人選をしてほしい。そして各球団は「どうせ親善試合だから」とか「秋季キャンプで強化指定選手だから」といって派遣拒否はしないでもらいたい。監督が選びたい選手全員が参加する。はっきりいって「診断書がなければ代表の招集拒否はできない」くらいの制約を取り決めたっていいくらいだ。

 国民の前でプレーできる五輪なんて、50年、いや100年に1度かもしれない。野球界全体の団結力を3年間で示してほしい。

週刊朝日 017年8月11日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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