放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「松居一代の独白」をテーマに送る。

*  *  *

 あれは僕が中学生の時。1985年6月、豊田商事刺殺事件は起きた。男がカメラの前でマンションに侵入し、しばらくしたら血だらけの包丁のようなものを持って出てきた。そして逮捕された。一人の人が殺される瞬間こそ映ってないが、今から殺しに行く人と、そして殺しているであろう間の部屋の前、そして人を殺して出てきた瞬間をカメラは捉えていた。あの瞬間の映像の熱量は相当なものだった。カメラの前で事件が起きた瞬間。

 われわれ団塊ジュニア世代にとって、激しく記憶に残っている。

 テレビができてから、あらゆるニュース映像が放送されてきた。全国の人たちがそれを見ることによって、記憶に刻まれてきた。テレビから流されたニュースは、時代も変えてきた。

 そして今、時代はネットに。もはやニュース映像はテレビだけのものではない。個人が撮影したものもニュースとなりネットに流される。時にはその映像は、テレビ局が撮影していたものよりパワーを持っている時がある。

 と、書いてきたが、何を言いたいかと言うと、松居一代さんである。連日、ワイドショーで取り上げられているこのニュース。僕はこれはメディアを大きく変える「事件」だと思っている。というのも、YouTubeを使い、個人的に発信したものが、メディアをとてつもなく巻き込んでいるからだ。

 縁あって、今年、YouTuberを多く抱える会社の社長と仲良くなり、自分なりにYouTubeとYouTuberなるものを結構勉強している。テレビの人はYouTubeを上から見る人が多いが、YouTubeは日本でかなりの巨大なメディアであり、その幹は今後もどんどん大きくなるだろうと思っていた。そんなところに、松居一代さんである。

 
 自分で考えたのか、誰かが提案したのかわからないが、YouTubeを使って発信するということは、誰にも妨害されない。仮にテレビ局が取り上げなかったとしても大きな話題になることはわかっていたはずだ。

 今までだったら、週刊誌などに独白していただろう。それが日本の定番。だけど、それをYouTubeにした。一瞬にして多くの人が見るし、ネットに永遠に残る。影響力は雑誌の独白よりも当然すごい。例えばこのスタートがテレビだったとしたら、テレビ局一局に独白したとしても他局はその映像を使えない。だけどYouTubeだから全メディアが使えるのだ。

 今まで日本で一番有名なYouTuberはHIKAKINだったが、またたくまに松居一代さんが躍り出た。この記事が出ている頃に、松居一代さんの事件がどう変化しているかわからないが、今後、この松居一代スタイルをまねする人が増えるであろう。結婚離婚などの報告も、YouTubeで行う人も増えるかもしれない。

 この松居一代スタイルは、日本においての、新たなメディアの流れを作ってしまった。

 恐るべき事件なのである。

週刊朝日 2017年7月28日号

著者プロフィールを見る
鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

鈴木おさむの記事一覧はこちら