いまだ釈然としない森友問題と加計問題。ジャーナリストの田原総一朗氏は時間の経過とともに矛盾する安倍総理の発言に疑問を呈する。

*  *  *

 加計学園問題というのは、一私立大学の一学部の問題であり、言ってみれば些細な問題である。

 たとえば経済は失業率が3%を割り、有効求人倍率は全国で1を超えた。貧富の格差も他国に比べ非常に少ない。世界でも例がないほど安定している。それなのに、安倍内閣の支持率がなぜ、各紙とも30%ぎりぎりにまで急落したのか。ハッキリ言って、国民の多くが安倍首相に拒否反応を抱き、安倍首相には我慢できない、と強く思ったのである。

 安倍首相は過去4回の選挙にいずれも大勝し、支持率が50%以上で揺るがないので、自信過剰になり、神経が麻痺したとしか思えない。

 たとえば森友学園問題で、なぜ「私や妻が(許認可や土地売買に)かかわっていたら、総理大臣を辞めるし、議員も辞める」などと余計なことを言ったのか。

 私は、7月7日に籠池泰典氏にインタビューした。その中で「2015年の10月に安倍首相夫人に電話をしましたね。昭恵夫人は海外出張中で留守番電話だったが、いったい何を頼もうとしたのですか」と問うた。籠池氏はこう答えた。

「国有地の払い下げの価格が高すぎる。何とか安くしてもらえないものか。そして学園側が工事費の立て替え払いをしているのですが、それを返金してくれるように頼んでいただきたい、とお願いしました」

 すると昭恵夫人付職員から連絡があり、籠池氏は詳しい内容を書き郵送した。その結果、ファクスが2度届き、「16年4月に、工事費の立て替え分1億3176万円が支払われ、6月20日には8億円以上差し引いた価格で国有地を買うことができた」と、籠池氏は説明する。

 そして籠池氏は、「これは昭恵夫人にお願いしたことに対する満額回答で、昭恵夫人のご尽力には心から感謝している」とも語った。

 
 昭恵氏に裏をとったわけではないが、この籠池氏の答えと、安倍首相の発言とは大きく矛盾する。これをどう判断すればよいのか。

 加計学園問題では7月10日に国会の閉会中審査が行われた。問題になったのは文部科学省の文書にある萩生田光一官房副長官の昨年10月7日付の「ご発言概要」で、萩生田氏が獣医学部新設にかかわっていたことを示す内容だ。萩生田氏はこの日に文科省の常盤豊高等教育局長と面会したことは認めたが、「このような項目についてつまびらかに発言した記憶はない」とあいまいに答え、常盤局長も「記憶にない」と同じ逃げ方をした。松野博一文科相も、この文書についての調査はしないと、逃げたような答え方をした。さらに山本幸三地方創生相は、文科省の文書や前川喜平前事務次官の発言を全否定したが、内閣府側の文書は示さなかった。この点は、高橋洋一氏や竹中平蔵氏など、この問題で政府側が正しいと主張する人物たちも、内閣府の文書を公開すべきだと表明している。

 そして安倍首相は、加計学園問題でも「私はまったくかかわっていない」と余計な発言をしている。ところが、6月24日の神戸市内での講演会では、「獣医師会の強い要望で、中途半端な妥協をしたことが国民的な疑念を招いた」のだと、自らが深くかかわっていたことを表明するような発言をしているのである。森友問題も加計問題も、政府側の誰もが無責任に逃げ、安倍首相は考えられない矛盾発言を繰り返している。それに国民は怒っているのである。

週刊朝日 2017年7月28日号

著者プロフィールを見る
田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

田原総一朗の記事一覧はこちら