巨体の清宮の全力疾走は迫力満点(c)朝日新聞社
巨体の清宮の全力疾走は迫力満点(c)朝日新聞社

 東・西東京大会の開会式翌日(7月9日)、早稲田実業は王貞治記念グラウンドで練習を行っていた。

「ゴーゴーゴー! さあ声を出していきましょう!!」 ウォーミングアップを終えた早実ナインは、主将の清宮幸太郎の合図で内野ノックを開始した。しかし、この練習にもうひとりの主砲・野村大樹(2年)の姿がない。遅れること5分、グラウンドにやってきた野村は、左足を気にしながら、屋内練習場へと消えていく。

 前日、この春からの定位置である捕手についた野村は、ファウルチップを足に当ててしまったという。本人いわく、「軽傷です」。1週間後に控えた初戦にも影響はない、と語気を強めた。

 春の東京大会決勝(日大三戦)のスコア「18対17」からもわかるように、早実は打のチームだ。西東京大会開幕前に高校通算本塁打が103本に達した清宮と共に、右打者でありながらライト方向へも大きい当たりが打てる4番・野村のけがは大きな不安材料のはずだ。清宮は言う。

「まだ1週間あるし、大丈夫だと思います。僕だったら、1日でも練習に参加しないと調子を崩しちゃいそうで怖いですけど、野村は天才肌というか、1日休んだぐらいで調子を落とすことはない」

 早実と対戦するチームにとって、恐れるべきは清宮の本塁打だろうか。それとも清宮の後ろを打つ野村の、勝負強さだろうか。確かに両者共にプロ注目の打者であり、春の東京大会決勝では2本塁打ずつ放ってチームを勝利に導いた。

 だが相手が最も脅威なのは、いくらリードしても、あきらめずに表情も変えずに食らいつき、会場を早実ムードに染めながら、ついには逆転する早実の一体感ではないか。日大三との春の決勝では、九回に4点差を追いつき、十二回にサヨナラ勝ち。勝負に執着する姿勢を、主将の清宮はどのようにチームメートに植え付けたのだろうか。

「スローガンでもある、常に『ゴーゴーゴー!』。試合でいつものようにプレーするために、みんなで考えて決めた言葉なんですが、どんな逆境だろうと、結果を恐れずに、このスローガンを口にしながら戦うこと。それが終盤の粘りにつながっていると思います」

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