その後、裕ちゃんが退院してハワイに行ったんです。裕ちゃんが僕に失礼なことを言ったから会いたがっていると聞いたので、僕は妻を連れてカハラの新しい別荘を訪ねました。けんか別れみたいになっちゃっていましたから。ところが、裕ちゃんがパジャマ姿で出てきたのを見て、「あぁこれは相当悪いんだな」と思いました。女房とは初対面です。初めて会う女性にそんな格好は絶対しない人ですから。

 30分くらい話してすぐに引きあげました。作品の話は一切していません。それが最後でしたね。僕は別れに行ったようなものでしたし、向こうもそれはあったでしょうね。マコちゃん(妻のまき子さん)と二人で僕たちの車が見えなくなるまでずっと玄関に立っていました。バックミラーに映っていたあの姿は忘れられません。彼が亡くなる87年、最後に東京で入院する前のことでした。

 裕ちゃんを一個の人間として好きでした。なんて言うのかな。スターの孤独ってあると思うんです。スターはみなからちやほやされていますが、すごく孤独なものだという気がする。裕ちゃんもそうだった気がします。

 スターと役者は違います。スターは人に見られるもの、役者は人を見るものです。喫茶店に入ったときに、壁を向いて顔を見せないのがスター。壁を背にして客を観察するのが役者です。僕なんかは壁際に座ってそこら中を見回しているっていう仕事でしょ。そうしないと作家なんてできませんから。もちろんスターの中にもちゃんと観察しようとするスターはいますよ。でも、裕ちゃんは人に見られちゃうからね。裕ちゃんには最後に文芸作品を撮らせたかったなぁ。

週刊朝日 2017年7月21日号