失語症の診断には「標準失語症検査」が用いられる。「話す、聞く、読む、書く、計算」の能力がどの程度障害されているかを、単語、短文、状況説明など26項目で評価し、定期的に検査を繰り返し、リハビリの効果をみる。

 木村さんはブローカ失語で、話は理解できているがうまく話せなかった。家族にまで「頭がおかしくなった」と誤解され、ひどく落ち込んだという。

 訓練では絵カードや現物と漢字を合わせる、単語を文章にできるように助詞の使い方を学ぶなどがある。また、残存する能力を活用して、絵やジェスチャーなどでコミュニケーションを図ることがある。

 木村さんは、言語聴覚士との訓練や「失語症友の会」でグループワークを重ねるうちに、ジェスチャーまじりの会話ができるまでになり、明るさを取り戻した。

「失語症の改善には人と関わることがとても大切です。言葉が不自由でも生活していけるように、家族や周囲の人が失語症を理解し、援助の手をさしのべることが不可欠です」(稲川医師)

 一方、運動性発話障害は発声発語器官だけの障害なので、話そうとすると声の高さや大きさが単調になる、子音が不明瞭で聞き取りにくいなどの状態だ。

 言語聴覚士による訓練は、

【1】姿勢を整え肩や首の力を抜き、口や顔の体操をして声を出す練習をする
【2】五十音、単語、文章などで発音を練習する

 などがある。発音の練習には言葉を句切りながら話すフレージング法、単語などのまとまりごとに手や足で机や床をたたくタッピング法などがある。

 話す訓練をする一方で、意思疎通を補助する「拡大代替コミュニケーション(AAC)」がある。文字盤やコミュニケーションノートを活用する方法だ。最近ではパソコンやスマホの画面を指さす方法や、言葉を入力してボタンを押すと言葉が音声として再生されるアプリも利用されている。

 脳卒中の後に嚥下障害を起こすこともある。食べ物を口に運び、咀嚼(そしゃく)して咽頭(いんとう)から食道、胃まで送り込む一連の動作が困難になる障害だ。国立国際医療研究センター病院リハビリテーション科医長の藤谷順子医師はこう語る。

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