山中千尋(やまなか・ちひろ)/米国バークリー音楽大学を首席で卒業。2011年、日本人として初めて米デッカレーベルと契約。全米デビューを果たす。15年からバークリー音楽大学助教授として後進の指導に当たる(撮影/写真部・岸本絢)
山中千尋(やまなか・ちひろ)/米国バークリー音楽大学を首席で卒業。2011年、日本人として初めて米デッカレーベルと契約。全米デビューを果たす。15年からバークリー音楽大学助教授として後進の指導に当たる(撮影/写真部・岸本絢)

 この不協和音は何? この変わったリズムは何──? 音楽家・山中千尋さんがジャズに興味を持ったきっかけは、曲を聴きながら、いくつもの“クエスチョン”を感じたからだ。自分の感情に違和感や驚き、ざわめきをもたらす音楽。幼い頃からずっとクラシック音楽を学んでいたが、ジャズを聴くようになると、素直に心がときめいた。純粋に、「この音楽が好き」と思えた。

「クラシック音楽を演奏するときは、楽器と自分の間に、モーツァルトとかベートーベンのように、必ず作曲者が介在してしまう。でも、ジャズの場合は、自分が感じる“今”をそのまま表現できる。音楽のルーツがバラバラの人たちが集まっても、一緒に演奏できる。そんな自由度の高さに惹かれたんだと思います」

 アメリカのバークリー音楽大学で、ジャズのメソッドを学んで以来、ニューヨークを拠点に活動している。2001年のデビューから年1枚のペースでアルバムを発表している彼女が、今年リリースしたのが、「モンク・スタディーズ」。セロニアス・モンクの生誕100周年を記念したオマージュ・アルバムは、リズムセクションにエクスペリメンタル(実験的)・ジャズの最先端で活躍するミュージシャンが参加し、モンクの音楽に斬新な解釈を加えている。

「私は、ジャズって、とても新しい音楽だと思っているんです。今の自分の気分、時代の気分を強く反映させられる音楽だからこそ、こうやって世界中で生き延びているんだって。今回のレコーディングも、まったく予定調和的には進まなくて(笑)、音を録ってからも、実験の繰り返しでした。いつまでも終わることのない、疾走するようなグルーヴが生まれたかと思うと、ふとみんなが顔を見合わせて“そろそろかな”って同じタイミングで曲を終わらせたり。ジャズの演奏はいつも、どんなふうに盛り上がるか、どんなふうに帰結するのか、まったく予想がつかない。そこは、人生とよく似ています」

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