放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「小林麻央さん」から届いたメッセージをテーマに送る。

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 昔からよく耳にする言葉が急に自分のことのように感じるときがあります。「人生は一回きり」という言葉。45歳になった僕はその言葉が前よりも身近に感じられます。我ら団ジュニ世代の人もそうでしょう。20代のときは「人生は一回きり」と聞き、いい言葉だなとはわかっていても、本当の意味がズシンと重くのしかかることはなかった。だけど40を超えて、体に染みてきた。

 40代は人生の大きな選択肢になるときだと思っています。40代をどう生きるかで50代、60代がどうなるかが見えてくる気がします。40代を出世に生きた人は、50代、60代もそこを突っ走るしかない。僕は会社員ではないので外から見るとよくわかるのですが、会社というのは年を取っていくと、敗者のほうが多くなってくるんですよね。出世というものに向かって、ほとんどが敗者になっていく。敗者になった瞬間に、自分の人生をゆっくり歩きだしたりするのですが、その瞬間、大切なものがなくなってたりするんですよね。

 出世のコースを走ることを否定してるわけじゃないし、そこを走るパワーと勇気はまた格好いいと思う。

 だけど、「人生一回きり」という言葉が何歳で、どの時点で自分の身に染みるか?というのが大事な気がする。

 人の死というのは、それに気づかせてくれる大事な瞬間でもある。2年前に、僕より一個年上の放送作家の先輩が旅出たれた。子供が2人いました。その葬式で思いました。「人生一回きりだ」と。そして、6月23日のあのニュースで、この言葉がたくさんの人の体に染みたのではないかと思っています。

 小林麻央さんが22日に旅立たれました。市川海老蔵さんが「義務」として記者会見をした姿にも心を打たれました。が、様々なニュースで、小林麻央さんのことを「34歳の若さで」と伝えていました。通常なら「若さで」と入るのはわかりますが、小林麻央さんは乳がんになって、しばらくしてからそれを公表しました。

 
 そしてそれ以降も頻繁にブログをアップし、自分が病気と闘う姿を通して、様々なことを伝えました。女性としては本来なら見せないはずの姿を見せ、その勇気と力にたくさんの方がパワーをもらいました。残された時間を最大限に活用し、届けてくれました。

 最後に麻央さんが伝えた「愛してる」という言葉を海老蔵さんの口から聞いた後、病気になり旅立っていったことを、簡単に「かわいそう」と思ったり、悲劇と単純に捉えたりしてはいけないと、僕は思っていました。

 人はいずれ死にます。34歳で旅立つことは確かに若い。若すぎる。だけど、その人から見れば悲劇の運命を、小林麻央さんは、人生を通して、愛を伝えてくれました。だからかわいそうじゃない。本当に格好良く素敵だった。

 人生一回きり。その人生で、愛することの素晴らしさ、愛されることの素晴らしさ、愛する者のいることの素晴らしさを伝えてくれました。ありがとうございます。

 小林麻央さんのご冥福をお祈りいたします。

週刊朝日  2017年7月14日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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