人間性脳科学研究所の澤口俊之さんは、幼少期に将棋をすることで”成功”を収めやすいと指摘する。

「羽生善治(三冠)さんの脳は以前研究されていて、直観に関わる脳の部位が秀でていることがわかりました。また、われわれの研究では習い事をする子供たちで、囲碁と将棋を習っている子は頭が良いという結果が出ています。”意味のあるIQ”と呼んでいるのですが、社会的成功や学業的成功を収める傾向があります。ピアノもそうですね」

 ちなみに、幼いころから将棋に親しむ芸能人やスポーツ選手は意外といる。例えば、日本屈指の演技派俳優の松山ケンイチさん。昨年秋に本誌の羽生三冠との対談で、棋士の役作りのためではなく、小学校のころに将棋を指していたと明かしている。

 またスポーツ界では、サッカー日本代表でJ1柏レイソルのGKの中村航輔選手。小学校低学年から親しんでいた。一時期、将棋からは離れたが、3年前から再び熱が入り、いまはオンライン対局を楽しむ。

「将棋は勝負の鉄則という点で、サッカーに生かせる面があると感じています。もともと『考えること』が好きでしたが、将棋をやることで、より深く考えを巡らすということにつながったかもしれません」

 ゴールを守る中村選手は、相手選手に攻められても、相手の動きの二手三手先を読んで、ピンチの芽を度々摘んでいる。将棋効果があるのは間違いない。

 一方、タレントのつるの剛士さんは大人になってからハマり、いまでは将棋のイベントを主催するなど普及活動まで行う。

「25歳のとき、移動中の暇つぶし程度に購入した携帯ゲーム機ソフトがきっかけ。詰将棋を解いているうちに魅力に取りつかれ、インターネット将棋や、街の道場(新宿将棋センター)に通い腕を上げていきました」

 将棋に親しむようになってから、平常心を保てるようになったといい、負けを潔く認めることを学び、礼儀も身についたという。

「バラエティー番組などで自分を駒に例えるクセができました。今日のポジションは『銀』だなとか、『歩』になりきろうとか」

 将棋で培った人間性が変化の激しい芸能界を生き抜く糧となっているようだ。

 まだまだ続く、藤井フィーバー。子供たちがどんどん将棋をやり始めたら、10年後、20年後には次々と天才が現れてくるかもしれない。(本誌・大塚淳史)

週刊朝日 2017年7月14日号