アニサキスを内視鏡で摘出する様子(吉岡医師提供)。体長は2~3センチだが、丸まっていることが多く、見つけにくい
アニサキスを内視鏡で摘出する様子(吉岡医師提供)。体長は2~3センチだが、丸まっていることが多く、見つけにくい

 アニサキス症はアニサキスによって起こる食中毒。刺し身やすしを食べてから1~24時間で発症し、激しい腹痛と嘔吐、吐き気に襲われる。この春、アニサキス症にかかったタレントによって広く知られるようになったが、実は、事件数では、ノロウイルスや鶏肉の生食によるカンピロバクターが原因の食中毒に次いで、3番目に多い。

 厚生労働省によると、患者数は2015年で133人。だが、「実際はもっと多い」と話すのは、国立感染症研究所寄生動物部の前室長の杉山広さん。医療機関の診療報酬明細書(レセプト)などを元に患者数を割り出したところ、年間7147人という結果になった。しかもこれは医療機関を受診した数であり、病院に行かなかった人の数は含まれていない。

「実は最近の研究では、アニサキス症は食中毒というだけではなく、アレルギーが起こるということでも注目されています。青魚を食べるとじんましんが出る人がいますが、この症状の原因の一つが、アニサキスなのです」(杉山さん)

 その説を裏付けたのが岐阜大学前教授の粕谷志郎さんの研究だ。サバでじんましんが出る被験者の皮膚に、サバとアニサキスのエキスをそれぞれ擦り込んで反応を見る試験を行ったところ、全員がサバではなく、アニサキスのエキスに反応を示したという。

 アニサキスは新鮮な魚では内臓にいるが、時間がたつと身に入り込む。刺し身の中に入り込んだアニサキスを見つけるのは、至難の業。とくにこれからの季節は、サバよりもサンマによるアニサキス症が増えるので気をつけたい。

 アニサキスは、60度で1分の加熱、あるいはマイナス20度以下で24時間の冷凍で死ぬ。安全な刺し身を食べたければ、冷凍処理をしたものを選ぶこと。一方、酸には強いため、酢でしめても死なないという。

 発症したら医療機関を受診し、内視鏡でアニサキスを摘出するのが最も有効。ただ、胃に食べものが残っていると内視鏡ができず、夜中の発症だと朝まで待たなければならない。

 その場合は、市販薬の正露丸(大幸薬品)を。正露丸に含まれる“木(もく)クレオソート”という成分が、アニサキスの活動を抑えるというのだ。同製品の症例報告によると、1回3粒の服用での改善例が1例、それを超える服用での改善例が1例あったという。

「症状や薬の効果には個人差があります。食あたりの効能として用法、用量どおり服用いただき、様子を見て医療機関を受診することをお勧めします」(広報部)

 食中毒は私たちの食生活と常に隣り合わせだ。正しい知識で対応したい。

週刊朝日 2017年7月7日号