前出の笹井さんは、おにぎり食中毒を予防するには「菌をつけない、増やさないことが大事」とアドバイスする。

「エンテロトキシンは一度作られると、加熱しても壊すことができないからです。握る際は、必ずラップを使ってください。中に入れる具を扱うときも、箸などを利用すること。サケの身をほぐしたり、のりを巻いたりするときに、うっかり手を使ってしまうことがあるので、気をつけて」

 前夜におにぎりを作っておくのは、「絶対ダメです」(笹井さん)。黄色ブドウ球菌は7~8時間かけて増殖する。前日に作っておくと、食べるときにはおにぎりに毒素が多量に蓄積されている可能性が高いからだ。「昼に残したおにぎりを、夕方、おなかが空いたからと食べるのも、絶対にやめてください」(同)

 意外な対策は、手のケアだ。黄色ブドウ球菌はケガをした場所に多く付着。食中毒予防としてせっけんで手を洗うことが推奨されているが、洗いすぎはかえって手荒れをもたらし、菌の温床になる危険性がある。

「せっけんや洗剤を使った後は、ハンドクリームなどをしっかり塗って手荒れを防ぐ。しっとり、すべすべの手は、食中毒対策の面からも大事なのです」(同)

 手荒れやケガがある場合は、使い捨てのビニールの手袋などをはめて料理をすることが勧められる。

 食中毒で気をつけたいのはおにぎりだけではない。青魚など旬の刺し身も要注意だ。

 京都府在住の20代の男性は、しめサバを食べた翌朝、胃に激痛が走った。近くのクリニックで胃薬を処方されたが、痛みはまったく治まらない。その翌日、消化器内科の吉岡医院(京都市上京区)に駆け込んだ。

「問診から“胃アニサキス症”を疑い、緊急内視鏡を行いました」

 同院院長の吉岡幹博医師が胃カメラで男性の胃の中をのぞくと、案の定、白い糸のようなものの先端が、胃壁のなかに潜り込んでいた。アニサキスという寄生虫だ。吉岡医師が胃カメラの先端のピンセットのような道具でつまみ、引っ張ると先端が胃壁から抜けた。2~3センチで、丸まっていた。

 吉岡医院ではこの男性のほか、4~5年で5人のアニサキス症を診たという。

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