落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「連戦連勝」。

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 この原稿を書いている時点で、将棋藤井聡太四段は28連勝中だ。オリジナル扇子もバカ売れだそうで。

 対局中の「チョレーイッ!」の雄叫びはもはやお馴染み。あ、これ違う人?「喝だーっ!!」の人? それも違う人?

 藤井くんに負けずに私も『連戦連勝』したいと思う。噺家の場合、勝ち負けがわかりにくい。だから、生活のはしばしに「勝ち負け」をつけることにした。

 つい先日、『連戦連勝』な一日があった。私の某月某日の連勝記録はこんなかんじ。

1勝目……朝から晴天だ。傘差さなくていい雨なら私の勝ち。
2勝目……目覚まし時計より30分早く起きて二度寝。しめしめ。
3勝目……二度寝から目覚めてもまだ余裕があるじゃないか。
4勝目……習慣の体重測定、昨夜より500グラム以上減。
5勝目……朝ご飯のアジの身、骨ばなれがよく綺麗に完食。
6勝目……しらす干しに小さいカニが3匹入ってる。得した。
7勝目……コーヒーを美味しく淹れられてカミさんも満足。夫婦円満。
8勝目……NHK「ひよっこ」をオンタイムで視聴できた。今日も泣けた。いいね、ひよっこ。
9勝目……テレビ朝日「じゅん散歩」を観たら高田純次が近所に来ててちょっと嬉しい。
10勝目……お気に入りのTシャツが部屋干しで乾いてた。
11勝目……洗濯物の量と物干しピンチの数がぴったり。
12勝目……ペヤングソースやきそば、湯切りしたあとフタにキャベツくっつかなかった。滅多にないこと。
13勝目……トイレでお尻拭いてもペーパーが全く汚れない。
14勝目……週刊誌の壇蜜の袋とじ、ボールペンの先でも綺麗に切れた。
15勝目……駅の改札通ったら、『1192』と年号みたいなスイカの残額。イイクニ!
16勝目……ホームに着いたらすぐ電車きた。
17~21勝目……紙幅の都合で省略します。

 
22勝目……某寄席の楽屋。おっかない某師匠はすでに帰っていた。ホッと一息。
23勝目……寄席のあと。行きつけの喫茶店空いてて、ナポリタン頼んだらすぐきた。
24勝目……ナポリタンのケチャップ、シャツに飛んだけどオレンジのシャツでセーフ。
25勝目……喫茶店のテレビで「ひよっこ」の再放送やってる。2度目は泣かない。私の勝ちだ。
26勝目……喫茶店の週刊誌の壇蜜の未開封の袋とじ。誰かの名刺使ったら、また綺麗に切れた。
27勝目……上野の街を歩いてたら『パンダ誕生』の記念品もらった。パンダ好きだ。
28勝目……上野鈴本の高座へ。思いのほか、満員御礼!

 朝、起床してから寄席の高座に上がるまでで早くも藤井四段に並ぶ28連勝。勝利は思わぬところに転がっていて、見つけようとすれば案外と見つかるもの。

 でもこの後、上野の高座で意外とスベって、その日は28連勝でストップ。本日、初黒星。

 いつか負けるんだから気にしない気にしない。あんなに人気者のパンダだって、白黒並んだ配色なのだから。

 パンダの子育ても藤井くんの将棋も、周りの声など気にせず、出来ることだけ頑張ろうじゃないの。なるようにしかならないのだもの。私も高座、頑張ろう。

週刊朝日  2017年7月7日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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