西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、野球界の「金の卵」をどうやって育てていくか、今考える時にきているという。

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 ようやく母校の箕島で監督やコーチともさまざまな意見交換ができる。プロ野球経験者が高校、大学の指導資格を回復する制度で、日本学生野球協会から資格を認定してもらえた。

 中西太さんら野球殿堂入りしたプロ経験者に限っての特例措置。通常手続きではプロ、アマ双方の研修会を計3日受講しなければならないが、殿堂入りした対象者はプロ側の1日の研修とアマ側へのリポート提出で代替できるようになった。それでも、知らないことは研修の中でも多くあったし、リポートも文章を書くのに慣れていないせいか、結構時間がかかった。

 もちろん、ここからアマの指導者を目指す方も出てくるだろうが、野球殿堂入りした者は、プロ球界での仕事もある。ただ、そういった多くの経験を持った方たちが、高校や大学の現場でアドバイスを求められたときに、その経験を伝えるだけでも違うと思う。特に野球界は少年少女の野球人口の減少が叫ばれて久しい。若いころから、より洗練された考え方や情報に触れる機会が増えるといい。

 高校、大学などのアマ指導は、勝つだけでなく、野球を通じた教育の場でもある。だが、私立高校はどうか。やっぱり甲子園に出て勝つことで知名度を上げたいと思う学校関係者がいる。そして、勝つために結果重視でスケールの大きな指導ができなくなっているのも実際に感じている。そこをプロ、アマ一体となってどうやって育成プログラムを組むか。一部の人間だけでなく、多くのプロ関係者も参加して、考えていくときだと思うよね。

 各界には規格外の若手が現れている。男子卓球の張本智和選手、そして将棋界でも藤井聡太四段がトップの棋士と互角以上に渡り合っている。サッカーの久保建英選手もすごい。野球界だって早実の清宮幸太郎という次代のスター選手が話題をさらっている。「中学生だから」「高校生だから」という年齢の枠組みで物事を考える時代はとうに過ぎている。そういった金の卵をどうやってスターに育てていくか。プロに入ってきた選手だけを教育すればいい時代は古いよね。プロの知識と、これまでアマチュア球界が築いてきたノウハウを融合させ、野球界をもう一度発展させることを考えないといけない。

 
 海の向こうのメジャーリーグでは、日本で最高の投手たちが苦戦している。ヤンキースの田中将大は150キロを超える速球ではなく、ツーシームなどで微妙に球を変化させる投球術で昨年まで勝ち星を重ねたが、今年は対策を立てられている感じがする。少しでも球威やキレが落ちれば、フルスイングでスタンドに運ばれる。テレビでその姿を見ると、メジャーリーグは急速に打者のレベルが上がってきているよね。ダルビッシュ(レンジャーズ)だって155キロを超える速球を簡単に打たれるシーンを目の当たりにする。「日本のトップの投手はメジャーで通用する」という評価も少し下がるかもしれない。それぐらいメジャーリーグの、いや世界のレベルは急速に上がっている。

 日本ハム大谷翔平は「二刀流」という規格外の概念をもたらした。しかし、彼の後に同じようなスケールを持った選手は出てきていない。新しい力がこれまでの概念を次々と打ち破らないと、球界全体として成長はしていかない。

週刊朝日  2017年7月7日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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