糖尿病はがん、脳卒中、心筋梗塞といった、いまや国民の死亡者数の約半数を占める疾患を引き起こす原因となる。「死亡率を下げるためにも糖尿病の予防こそが大切」と中路教授は言い、青森県が短命である理由として一番に指摘するのは「ヘルスリテラシー(健康教養)の欠如」。

「まずは、県民一人ひとりがヘルスリテラシーを身につけること。正しい健康の知識と考え方、意識のないところに行動変容は起こらないですから」

“短命県”を返上すべく、青森県もさまざまな取り組みを行っているが、なかでも中路教授がプロジェクトリーダーを務める「岩木健康増進プロジェクト」は今年で13年目。年に一度、弘前市岩木地区の住民約千人を産学官民連携チームで10日間かけて健診する。住民一人ひとりに「頭からつま先まで」のおよそ2千項目を検査。得られたデータを解析し、認知症や糖尿病などの生活習慣病の画期的な疾患予兆発見の仕組みと予防法の開発につなげている。

「自分の健康は自分で作る時代。短命県返上の取り組みや研究は、これから日本全体で役立ちます」(中路教授)

 一方、前述の「人口動態統計月報年計」で糖尿病の死亡率が低い県は、1位愛知県、2位神奈川県。3位滋賀県。糖尿病の受療率も低く、いわば“糖尿病で病院にかからない県”と言えなくもない。

「ですが、死亡率や受療率は、都道府県別の平均年齢と比例しやすい側面があるのです」

 そう指摘するのは、東京医科大学糖尿病・代謝・内分泌・リウマチ・膠原病内科学分野の小田原雅人主任教授だ。事実、国勢調査などによれば、これらの県は平均年齢が低い。

 その年齢などを加味したうえで小田原教授が注目するのは、新潟県だ。

「人間の死亡にひもづく一番の要因は喫煙で、次が高血圧です。新潟県は基本健診の受診率が高く、かつ、女性は塩分摂取量が低い。つまり、県民の健康への意識が高いのです。加えて、野菜の摂取量が男女ともに非常に多い。積雪などの影響で歩数は少ないにもかかわらず、肥満度は全国的にみて低いのです」

 野菜の摂取は、血圧を下げることに効果があることは証明されていると小田原教授は言い、さらにこう続ける。

「高血圧性疾患の人は、糖尿病にもなりやすい。つまり、普段から野菜を多く食べる文化が、自然と結果につながっているのだと思います」

 地元で採れる野菜などの地産地消こそ、食と体の基本になるのかもしれない。

週刊朝日 2017年7月7日号