目を赤くして会見に臨んだ海老蔵(撮影/馬場岳人)
目を赤くして会見に臨んだ海老蔵(撮影/馬場岳人)

 7月の「七月大歌舞伎」の舞台に立ち、親子演目の目玉でもある親子宙乗りに臨む4歳の長男・勸玄(かんげん)君。その晴れ姿を見るのを目標にしていた麻央さんだったが、かなわなかった。

 海老蔵は会見で、

「(子供が)5歳と4歳ですから、これからお母さんという存在が非常に重要なわけです。それを失った。僕は代わりにはなれないですが、できる限りのことをやっていくように思っています」

 と語ったが、幼くして母を亡くした子供たちを支えるには、時間をかけていくしかないのだろう。

 がん患者の心のケアを行う精神科医であり、「遺族外来」を受け付ける、埼玉医科大学国際医療センターの大西秀樹・精神腫瘍科教授によると、「死別は人生で最大のストレス」であるうえに、残された夫や妻は、親として子供のケアも必要で、さらに大変だという。一方で、子供には正直に話すことを勧める。隠し事は子供を傷つけるからだという。

 世話を焼く周囲の態度が逆効果になることも。「叱咤激励やアドバイスはよくない例です。『あなたの気持ちはわかります』というのも傷つけます。第三者が遺族の気持ちなどわかるはずはありません」(大西教授)

 子供のトラウマケアを専門とする、武蔵野大学人間科学部の藤森和美教授はこう話す。

「もう永遠に会えないんだ、など死というものをまだ十分に理解していないと思います。それよりも、いろいろな形で周囲の人たちが悲しんでいる様子を見て、ただならぬ状況の中で『どうしよう』という心境になっていると思います。子どもはストレスから、だだをこねたりわがままをいったりと『赤ちゃん返り』することがあります。海老蔵さんは『今日からママもやります』とおっしゃっていますが、他の周囲の方々もそれぞれが温かく愛情深く受け止めることが大切です」

 娘が5歳の時に、妻をがんで亡くし、その闘病生活や死去後の出来事をまとめた『はなちゃんのみそ汁』の著者・安武信吾さんは、

「娘は当初、お母さんともう会えないことを理解していない様子でした。でも、周囲の大人の会話を聞きながら、1年くらいかけて少しずつ、死というものが何か、理解し始めました」

 と振り返る。

「子供にはがんという病気はわかりません。風邪と同じような感覚で、それが長引いているんだと認識していました。黄疸(おうだん)が出た時も、『ママ、目が緑色になった。カメレオンみたいだね』と」(安武さん)

 安武さんは悲しみに暮れて、遺影の前で酒を飲み、精神安定剤を服用しながら1カ月以上が過ぎた。そんな時、娘がみそ汁を作ってくれた。妻が亡くなる半年ほど前に教えた料理だった。

 安武さんは言う。

「『お父さんが笑ってくれた』と喜んでいました。父の笑顔を見て、『自分は価値のある存在なんだ』と思ったのでしょう。悲しみの中にあっても、子供が『生きていて幸せだ』と思える環境が必要です」(本誌・大崎百紀、上田耕司、松岡かすみ、山内リカ、吉﨑洋夫、西岡千史)

週刊朝日 2017年7月7日号に加筆