「殺人など一線を越えるかどうかは別として、資産のある高齢男性を狙う女は多いでしょう」

 執筆のための周辺取材を通して、黒川さんが得た感触だ。そんな女に手玉に取られる男性の心理を、黒川さんはこう分析する。

「一定の年齢より年を重ねると、相手の容姿なんて関係なく、自分の面倒を見てほしいというのが一番。たとえうそでも自分を好きと言ってくれる目の前の女に遺産を渡してもいいと思うのが、男の心情でしょう」

 仕事中心の男性ほど、地域のコミュニティーに属していないなど、定年後に孤独を感じやすい。仕事に生きてきた男親には、子どもも寄り付かないケースも珍しくない。

「女親と違い、男親は普段、電話一本よこさない子どもに資産を残そうなんて考えませんよ」(黒川さん)

 さらに、筧被告の事件を含め、問題が表面化しにくいのには理由があるという。黒川さんは「男としてのプライドのため」と分析する。

結婚相談所に登録していることなんて、男は周囲に言いません。まして、女に公正証書を書けと言われたなんて、口が裂けても言わない。いかに自分がモテない男なのか、そうまでしないと女を自分の元にとどめておけないんだと公言しているのと同じことですから」

 冒頭の被害者男性についても、息子は筧被告の存在を父親が死んでから知った。近所の住人によれば、男性は筧被告と同居し始める際、近所には「妹」と紹介していたという。

「あいさつに来られたとき、筧被告が上目遣いに男性を見る様子とか、ねっとりとした雰囲気があって不思議でした。その後、近所でも『あれ、妹さんじゃないよね』とうわさになってましたが、誰も突っ込めないですよね……」

 男女問題に詳しい行政書士の羽村裕介さんによれば、独り暮らしの高齢男性が女性にだまされる被害はここ数年で急増。老後の独居に対する孤独感と不安から、結婚相談所やネットを通じてパートナーと知り合い、金銭トラブルに巻き込まれる例が多いという。

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