うな重をよく食べた加藤一二三九段 (c)朝日新聞社
うな重をよく食べた加藤一二三九段 (c)朝日新聞社
「ふじもと」のうな重(竹) (撮影/大塚淳史)
「ふじもと」のうな重(竹) (撮影/大塚淳史)

 史上最年長棋士として活躍した加藤一二三九段(77歳)が、6月20日の対局をもって、現役生活を終えた。“ひふみん”の愛称で親しまれ、4年前からははバラエティー番組「アウト×デラックス」(フジテレビ系)にレギュラー出演するなど、将棋界以外からも注目されていた。同番組は6月29日に「ひふみんスペシャル」を放送予定で、現役を退いた後も人気は続きそうだ。

【ひふみんが愛したうな重はこちら】

 そんな“ひふみん”のよく知られたエピソードが「鰻(うなぎ)」好き。東京の将棋会館(東京都渋谷区)での対局の際は、昼も夜もうな重を食べる。近くの専門店「ふじもと」から、よく出前を取っていた。

 勝負メシとして味わっていたうな重は、果たしてどんなものか。記者も食べてみたくなった。

 午後8時前にふじもとに入ると、店主の藤原悟さんが出迎えてくれた。店内はどこか昭和を感じさせる雰囲気だ。藤原さんは、

「昼はうな重の『竹』を頼んで、夜は竹よりうなぎが1枚多い『松』を頼んでいました」

 と教えてくれた。

 竹は3100円、松の値段は4100円。記者は竹を注文した。

 料理の合間に藤原さんは興味深いを話してくれた。ほかの棋士らの分と一緒に届けることもよくあったが、加藤氏だけ食べるタイミングがずれていたようなのだ。

「食べ終わった後に容器を回収するんですが、加藤先生は時々遅れるんですよ。他の棋士と時間をずらして、食べていたんじゃないでしょうか」

 注文して約20分。ついに目の前にうな重が現れた。表面はプルっとしていて、タレがおいしそうに光る。さっそく箸を入れた。身は柔らかく、ご飯と一緒に口に運んだ。タレは濃すぎず、薄すぎずちょうど良い。

 ふじもとは約50年前にできて、加藤氏は開店当初からうな重を注文していたそうだ。対局数を考えると1千食以上は食べてきたはずで、勝負メシの積み重ねに歴史の重みを感じた。

 加藤氏は引退したが、ほかの多くの棋士たちからの注文は続いている。快進撃を続ける藤井聡太四段(14)も、食べるかもしれない。ふじもとのうな重は、棋士たちの熱い戦いをこれからも支えていくことだろう。(本誌・大塚淳史)

※週刊朝日オンライン限定記事