川島裕 前侍従長 (c)朝日新聞社
川島裕 前侍従長 (c)朝日新聞社

 天皇陛下の退位を実現する特例法が、参院本会議で自由党を除く全会一致で可決、成立した。天皇陛下が退位の意向を表明してから10カ月。関係者には「皇室国会」はどのように映ったのか。川島裕 前侍従長に聞いた。

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 2003年にはじめて宮内庁式部官長として両陛下にお仕えし、07年から15年まで、侍従長として天皇陛下にお仕えして参りました。

 昨年夏の陛下のお言葉を契機に始まった作業が、多くの方の尽力をもって、6月に法案成立に至ったことについて、よかったなという気持ちでいっぱいです。ただ、報道や世の中の関心が退位やこれから先のことに集約し、陛下が「お言葉」の中で述べた「象徴天皇」の在り方について、といった議論がこの10カ月間、置き去りにされたように感じます。即位から約30年の歳月をかけて陛下が築き上げた象徴の意味合いについて述べたいと思います。

 12年間にわたりお側(そば)に仕える中で、両陛下が人々とお心を込めて会話をされ、人々と視線を合わせながら手を振られるお姿は強く思い起こされます。

 両陛下が地方にいらした際、道が狭いのでミニバスに乗り換えられることがよくあります。両陛下はお立ちになったまま、狭い車内を右や左に軽やかに動きながら、道の両側でうれしそうにお迎えしている人々に手を振られます。しかし、同乗する我々は毎度のことながらハラハラしながらお見上げしていました。

 東日本大震災の被災地においては、両陛下との会話により、被災者の気持ちが癒やされ元気づけられている場面を目の当たりにしました。私はかねがね、陛下と人々の間のこうした無数のインターアクションの積み重ねこそが、象徴の意味合いであり、定義付けであると感じていました。そのようにして陛下が皇后さまとご一緒に心を込めて築き上げてこられたのが平成の御代だったと思います。ですから、お年を召されてこうした象徴としての務めができなくなったら、象徴の地位を去るべきであり、その務めを半分にするとか、代行してもらうということはなじまない、と陛下はお考えだったと思います。

 退位された後は、今までよりもプライベートにいろいろとエンジョイされつつ、お健やかに幾久しくお過ごしになることを願っています。そうした両陛下のお姿は、これからますます増えてくるお年を召した世代の方々にとって、なにより心強いことであろうと思います。

週刊朝日  2017年6月30日号