作家の室井佑月氏は、日本政府と国連の公表内容に違いがあった問題についてあきれる。

*  *  *

 先週号のこのコラムで、自国の問題だけじゃなく、国際社会が絡んでいても、安倍政権への忖度でこの国の報道が歪められたりしてるんじゃないか、という話を書いた。

 そこまではやってないだろうと願いつつ。が、やっぱやりおった!

 もう嫌だよ。この国の人間として、恥ずかしく思う。時代から遅れた、非文明的な国みたいじゃないの。

 5月30日付の東京新聞朝刊の「政府と国連 公表内容に差」という記事ね。

<国連は二十八日、イタリア・タオルミナで行われた安倍晋三首相とグテレス事務総長との懇談内容を発表した。二人は「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案に懸念を表明したジョセフ・ケナタッチ氏が務める国連特別報告者の立場や慰安婦問題などについて意見交換したが、発言に関する公表内容が食い違う部分もみられる>

 という内容の。

 まず、日本政府の発表はこう。

<事務総長は、人権理事会の特別報告者は、国連とは別の個人の資格で活動しており、その主張は必ずしも国連の総意を反映するものではない旨を述べた>

 で、国連の発表はこう。

<特別報告者の報告書に関し、事務総長は首相に「特別報告者は独立しており、人権理事会に直接報告する専門家である」と述べた>

 ぜんぜん、ちゃうやん。

 ほかにも日韓合意が、政府発表と国連発表が食い違うものになっていたり。

 つまり、こういうことだろ。安倍政権が前のめりになっている共謀罪について、国連特別報告者のケナタッチ氏が「プライバシーや表現の自由を制約する恐れがある」と指摘したものだから、この国の政府はケナタッチ氏を国連とは関係なく動いている人、と印象操作したかった。だって、政府ははじめの頃、共謀罪をやらないと国連のテロ対策に……ゴニョゴニョといっていたじゃん(あとからまったく関係ないことがバレた)。なのに、国連から否定されたら困るもんなぁ。

 
 この国の報道は、安倍政権をただただ守りたいだけなのか。ずっと、彼が首相でいるわけもないのに。

 事実を歪めちゃいかんでしょ。そこを歪めた報道ならば、見ない方が良いってことになってしまう。

 そうそう、おなじく東京新聞の5月31日付朝刊で、「国連特別報告者 秘密法、政府に改正勧告」ってのもあった。覚えているかな?国連の言論と表現の自由に関するデービッド・ケイ特別報告者のこと。

<ケイ氏は、日本の報道が特定秘密保護法などで萎縮している可能性に言及、メディアの独立性に懸念を示し、日本政府に対し、特定秘密保護法の改正と、政府が放送局に電波停止を命じる根拠となる放送法四条の廃止を勧告した>

 でも、この国の政府はケナタッチ氏のときとおなじような態度でおった。<ケイ氏は報告書を国連人権理事会に提出、来月十二日の理事会会合で説明する予定>だって。

週刊朝日  2017年6月23日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら