世界経済を左右するAI開発。日本企業がその分野で勝てない理由をジャーナリストの田原総一朗氏が分析する。

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 6月2日付の日本経済新聞が「5月末の世界株の時価総額は76兆ドルとなり、2年ぶりに最高を更新した」と報じた。けん引役は米国のアップルやグーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックなどAI分野の先進企業で、日本を代表するトヨタ自動車ですら38位でしかない。AI時代、日本企業は負け組となっているのである。

 そこで、あらためて日本が先進国で例がない極めて特殊な国であることを認識せざるを得なくなった。

 欧米の先進国は、どこも2大政党が順番に政権を取っている。米国では保守政党である共和党とリベラル政党である民主党だ。保守は経済の自由競争を求め、政府は社会にあまり介入しない小さな政府である。しかし、この状態が続くと貧富の格差が大きくなり、勝者は少なく、敗者が圧倒的に多くなる。だから選挙を行うとリベラルが勝つ。リベラル政府は格差を減らすため、さまざまな規制を設ける。敗者を救うため、どんどん社会保障や福祉を強化する。すると財政が悪化する。そこで、次の選挙では保守が勝つ。こうして米国も欧州各国も、保守政党とリベラル政党がほぼ交互に政権を取っているのである。

 一方、日本では自民党が保守なのだが、経済ではリベラルというかバラマキ政策で、だからこそ1千兆円もの借財ができてしまった。いわゆる大きな政府である。そして民進党もリベラルであり、日本には保守党というものがないのだ。

 なぜ、ないのか。国民の多くが保守党を望んでいないからだ。はっきり言えば、日本人は競争というのが好きではないのである。そのために、企業もいわゆる「日本的経営」、つまり家族主義的経営で、終身雇用や年功序列といった特徴を持つ。

 日本では競争重視の企業は、財界からもメディアからも、そして検察からも嫌われる。だからリクルートの江副浩正氏やライブドアの堀江貴文氏などは、検察から「悪の権化」との烙印(らくいん)を押され、マスメディアからも袋だたきにされたのであった。

 
 繰り返し記すが、日本の企業は年功序列である。だから、若い世代には意思決定権がない。

 だが、ITもAIも、若い世代が強いのである。

 たとえばフェイスブックを立ち上げたマーク・ザッカーバーグ氏にしても、グーグル創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏にしても、いずれも若い世代だ。AI時代のピーク年代はスポーツ選手とほとんど同じで25~26歳なのだ。ところが日本企業の意思決定者は50~60代なのだから、勝てるはずがない。

 これは深刻な問題だ。だが、米国ではメディアの予測を裏切って政治経験のないトランプ氏が大統領となった。英国は有識者たちの予想に反してEUからの離脱を決定し、フランスの大統領選でも2大政党に属さないマクロン氏が当選した。米国も欧州各国も政治状況は極めて不安定であるのに、日本では安倍自民党が2012年以来、4回の国政選挙に大勝している。日本の政治状況は非常に安定しているのだ。その理由は失業率が低く、有効求人倍率が1を超えていること。そして何より他国に比べて貧富の格差が非常に小さいことだ。しかしそれは、日本企業が時代のけん引役になれず負け組となる要因の、家族主義的経営によるものなのだ。この現実を、どのようにとらえればよいのだろうか。

週刊朝日  2017年6月23日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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