現代社会を生き抜くための処方箋の一つとして期待されているのが、「自己効力感」を高めること。ストレスへの“免疫力”がつくと言われている (※写真はイメージ)
現代社会を生き抜くための処方箋の一つとして期待されているのが、「自己効力感」を高めること。ストレスへの“免疫力”がつくと言われている (※写真はイメージ)

 仕事の課題・問題は複雑化し、職場の人間関係など避けられないストレスも多い。企業に従業員のストレスチェックが義務付けられるなど、心身の健康を保つための対策を施すことはますます重要になっている。そんななか、現代社会を生き抜くための処方箋の一つとして期待されているのが、「自己効力感」を高めること。ストレスへの“免疫力”がつくと言われている。

 東京都内にある高齢者施設の施設長は、20代の男性職員Aさんの仕事ぶりが大きく変わったことに驚いた。

 以前のAさんは、自信がないためか、ちょっとした問題にもうまく対処できず、利用者の家族からのクレームも絶えなかった。仕事で失敗を繰り返し、ストレスをためる一方で、いつやめてもおかしくないという状況だった。

 そこから一転、ある研修を受けたことをきっかけに、Aさんは生き生きと仕事をするようになった。周囲の同僚からも一目置かれる存在になり、今では施設長も「いずれ施設を任せたい」と期待するほどだ。

 Aさんはなぜ変わったのか──。その疑問を解くカギは“自己効力感(セルフ・エフィカシー)”という概念にある。

 自己効力感とは、平たくいうと「自分にはできる」という確信のこと。具体的には、「ある結果を手に入れるための行動を、どれだけ適切に達成できるか見通せる力」を指し、スタンフォード大学の心理学者バンデューラによって1970年代に提唱された概念だ。これが高い人は、仕事に限らず何事においても積極的で、うまく立ち振る舞うことができると言われている。

 実は、Aさんは職場の研修で、この自己効力感を高めるためのスキルや考え方について学び、仕事に生かしていった。

 同施設の研修に関わった筑波大学大学院人間総合科学研究科の中村誠司さんは、研修前後でAさんを含めて職員の自己効力感がどう変わったかを調べた。すると、研修前に比べ後のほうが高くなっていた。さらに、離職者は減り、問題をスタッフ全員で共有するなど仕事への意識や働き方が変わってきたという。

介護の現場は高い意識を持って働く職員が多いのですが、介護度の高い利用者さんのケアをしているため、健康状態の目に見える改善といったわかりやすい達成感や手応えを得られにくい。そのため、バーンアウト(燃え尽き症候群)になりやすいことが指摘されていました。自己効力感をつけることでそれを防ぐことができた意味は大きい」(中村さん)

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