落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「共謀」。

*  *  *

 小4の時。水曜日の放課後に『班長の時間』というミーティングタイムが、担任の先生によって設けられていた。私は一応班長。6月頃だったか、

「クラスの歌を『班長の時間』で考えといてね」

 と先生から指令。学級委員が、

「何を考えればいいですか?」

 と聞くと、

「そうなあ……歌詞、メロディー、タイトル……、だいたい作っちゃっていいから」

 と丸投げな返答。

 キダ・タローじゃないんだから、そんなにすぐにオリジナル曲ができるわけなく、とうとう3回目の水曜日に。学級委員が、

「先生の好きな武田鉄矢の替え歌でいいんじゃね?」

 と『贈る言葉(4年3組ver.)』という歌を作ってきた。

<暮れなずむ野田の、醤油の樽の中、愛するあなたへ、4年3組……>

 みたいな歌詞。かなり恥ずかしい、字余りだし。

 先生は苦笑いしつつ、

「んー、とりあえず学級会で発表してみ……」

 案の定、反対多数でした。

 その後、業を煮やした先生が特設チームを結成し『銀河鉄道999』の替え歌になったんじゃなかったかな。

<汽車は、闇を抜けて、4年3組へー>

 みたいな。ひどいな、字余り。

 結局誰も納得しないまま、それを1年間唄い続けたはずだ。

 5年生になるとクラス替えで『班長の時間』もなくなった。

「面白いことねーかなー」

 と、暇な男子5、6人で放課後にぶつぶつ。

「先生の頭上にマンガのように上手く黒板消しを落とす方法」

「コロコロとボンボン、どっちが面白い?」

 みたいな、くだらないコトは時間を忘れさせてくれるのだ。

A君「雪が降ったら、昼休みは雪合戦だな」

一同「いいねー!」

B君「じゃあさ。先生を四方から連結タイヤ(古タイヤを重ねて繋げた遊具)で挟み撃ちにしてさ、ガンガン雪ぶつけて、ズボンの中にも雪放り込んで。しばらくしたら解放してやるの。で、前もって昇降口前に落とし穴掘っておいて、タオル持ったC(女子)を配置してさ。『先生ー、大丈夫!?』って油断させて、穴に落ちたら上から集中砲火。その間に職員室のロッカールームに忍び込んで、先生の着替えからなにから全部隠しちゃう。そうすれば午後の授業できなくなって、自習になるよ!!」

 
一同「おー! すげーよ!」

 まだやってもないのに放課後の教室は沸きに沸いた。物騒なレクリエーションは先生には内緒のまま、皆で雪の日を待つ。

 2月。朝から雪が降り続け、昼には脛あたりまで積もっていた。さすがに落とし穴は無理だったが、心の準備は十分だ。「やるか?」「やろう!」

「先生は風邪気味だから職員室にいます。なにかあったら呼ぶように」

 シラケた空気が流れた。

「しょーがねーや。今日のところは勘弁してやらあ……」

 昼休みは体育館でバスケットをした。シラケたなかにもみんな何となくホッとした。放課後には雪は溶けだし校庭はぬかるみぐちゃぐちゃになっていた。

 先生は先に立って雪かきをしていた。さっき「風邪気味」と言ってたはずなのに。

週刊朝日  2017年6月16日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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