大関昇進の伝達式を終えて稀勢の里(左)と握手する高安=5月31日 (c)朝日新聞社
大関昇進の伝達式を終えて稀勢の里(左)と握手する高安=5月31日 (c)朝日新聞社

 平成生まれの国内出身者としては初の大関となった高安(27)。昇進した5月31日、兄弟子の稀勢の里と固い握手を交わした高安は、こう語った。

「たくさん稽古をつけてもらった。今の自分があるのも横綱のおかげです」

 スポーツ紙デスクは言う。「稀勢の里は自分から手を差し出して高安に握手を求め、見たこともないような笑顔でした。あの日の稀勢は朝からハイテンションで、囲み取材でも笑顔で、『こんなにうれしいことはない』と。報道陣から『一杯やったのかな?』なんて声も出たほど(笑)、珍しくご機嫌だったそうです。角界では同部屋の力士同士は仲が悪い、という話が多いんですが、あの2人は非常に良い関係の先輩・後輩です」

 高安といえば、新弟子のころ、脱走を繰り返したエピソードが有名だが、何が彼を変えたのだろう?

「昇進で『親孝行ができた』と言ってましたが、お父さんが病気(腎臓がん)をされてから一度も脱走しませんでした。頑張んなきゃ、と思ったようです」(当時を知る関係者)

 高安少年にとって、角界でも指折りの厳しい稽古をつけていた先代師匠の故鳴戸親方(元横綱・隆の里)の部屋に属し、いい先輩に巡り合えたのが「良かった」という声が多い。それが同郷(茨城)の稀勢の里だ。

「お相撲さんにとって、同じ部屋に強い稽古相手がいるのは恵まれた環境です。脱走を繰り返して三段目までの出世も遅かったことから考えて、高安は、最初から大関になるような器ではなかったはず。本人のやる気があってこそですが、鍛え上げられて大関にまで出世した、ということでしょう」(前出デスク)

 2人には、最近では珍しい中卒で入門のたたき上げという共通点もある。

「先代師匠は、高校や大学で相撲経験があると、そこそこ完成されているが“伸び”がないから、中卒を育ててたたき上げを作りたいと考えていたそうで、2人の出世はうれしいでしょうね」(相撲担当記者)

 母親のビビリタさんはフィリピン生まれ。角界では御嶽海など母親がフィリピン出身の力士が増えている。兄弟子の稀勢の里同様に口数の少ない印象の高安だが、それは「相撲以外のことはベラベラしゃべるな」という先代師匠の教えからだそうで、根は母親譲りの明るい性格だという。

週刊朝日 2017年6月16日号