EU残留を主張しフランス大統領に就任したエマニュエル・マクロン氏。“伝説のディーラー”藤巻健史氏は大きな期待を寄せるものの、失業率の改善は可能なのかと疑問を呈する。

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 5月下旬の朝、めまいがして起き上がれなかった。家内アヤコが脳梗塞を心配し、医者の卵の次男ヒロシに電話で指示を仰いだ。診断結果は「頭は大丈夫。悪いのは性格だけです」。

 ただ、ベッドから起き上がれず国会を1日休んでしまった。9年間乗る車が最近故障続きだが、66年間生きる私も、がたがきている。若い人がうらやましい。

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 39歳と若いエマニュエル・マクロン氏がフランス大統領に就任した。その若さに大いに期待したい。

 反EUと反移民を掲げた右翼の国民戦線、マリーヌ・ルペン氏を退けたため、「英国のEU離脱決定、トランプ・米大統領の誕生と続いた『自国第一主義』に歯止めがかかった」との論評を多く聞いた。ただ、EU死守が「グローバル主義」で、反EUが「自国第一主義」とのレッテルには、疑問を持たざるを得ない。

 フランス国民は相次ぐテロに加え、高い失業率などの経済問題に辟易していたと言われる。それらを解決できなかった既存の2大政党にそっぽを向いたのだ。

 マクロン氏の喫緊の課題は、世論調査でいつも不満のトップの失業率の改善。しかし、EU残留を主張する立場で、有効な対処手段を見いだせるだろうか?

 反EUのルペン氏なら簡単だ。通貨ユーロから離脱し、フランスフランに戻して低め誘導すればよい。

 わかりやすくするため、1=1フランとしよう。ドイツの企業は1=1フランのときに月給100フランのフランス人労働者を雇うには、100を払わねばならない。1=2フランのユーロ高/フラン安になれば、50で雇える。ドイツ企業はフランス人労働者を2分の1の給料で雇えるのだ。フランス人労働者の需要は大いに盛り上がり、失業率も大幅に改善するだろう。

 
 通貨ユーロからの離脱は為替操作という強力な景気・失業対策の手段を再び手にすることなのだ。通貨ユーロを使い続ければ、地域固定相場制の継続になる。共通通貨を使うとは、何種類もの通貨を使うが、いつも同じ為替レートで交換できるのと同じだ。

 読者の皆さんがなぜドル預金にちゅうちょするかと考えると、満期時に為替損をこうむるリスクがあるからだろう。固定相場なら為替損はこうむらず、必ずや金利の高い通貨に預金する。言い換えれば、地域固定相場制を採る限り、好景気・不景気にかかわらず、各国の中央銀行は政策金利を同一にしなければならないということ。金融政策の放棄になる。

 為替・金融政策を放棄したユーロ圏の国々は、財政政策に頼らねばならない。理想は一つの国だが、ドイツ人の税金をギリシャ人に無条件で投入できるかというと、首をかしげざるを得ない。ギリシャ危機の際、「怠慢なギリシャ人を助けるために私の税金を投入してほしくない」とドイツ人が発言していた。となると、一つの国どころか、統一的な財政は無理。戦争を経験したヨーロッパが一つの国を理想とするのは尊いが、財政統一が難しければ一つの国は非現実的だ。

 かなえられない理想を追うのが「グローバル主義」で、現実を追いかけるのが「反グローバル主義」なのか。私はそう断じることはできない。

週刊朝日 2017年6月16日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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