女性が「二度としません。申し訳ありません」と素直に認め、さらに「指紋なんて、ほんと駄目ですよね~」と同調すると、怒りはすぐ収まる。以来、女性は資料を持参する際、指紋をつけないためにバスガイドのような白い手袋をはめるように。嫌みでやったつもりなのに、「わかっているじゃないか、君は」と社長はご満悦だった。

 反発する社員もいた。社長の怒りに接した40代の男性社員は謝らずに、「はぁ?」。すると、社長は「なんですか! その態度は」とさらにキレ、翌朝に社員のパソコンを没収した。3日後、男性は退職するはめになった。

 女性はすでにこの会社を辞めているが、「すぐにキレる偏屈社長。職場の人が次々に辞めていった」と振り返る。

 東京都内で「成城墨岡クリニック」(神経科・神経内科)を開業する墨岡孝院長は「人がキレるのは、自分の価値観を理解してほしいのに、それに対して反論が出たときです」と話す。

 経験豊かな上司や管理職世代が、部下に自分の思いを伝えようとするのは、よくあること。どのような心構えで部下に接すればよいのか。

「管理職側は若い世代の声をしっかりと吸収・咀嚼(そしゃく)して、世代間のギャップを感じられないようにすることが必要です。自分の築いてきたこれまでの知識や経験は本当に正しいのか。その点を客観的にとらえようとすれば、世代間の意見の相違を防ぐことにつながります」(墨岡院長)

 こんな調査結果もある。日本アンガーマネジメント協会によると、入社3年以内に辞めた新卒社員の半数以上は、上司との良好なコミュニケーション不足が原因だったという。どうすれば退職を回避できたと思うかとの質問に、最も多かった答えは、「上司との良好な関係」の28%。次いで「(上司からの)適切な叱られ方」の23%だった。

 同協会代表理事の安藤俊介氏は「新卒社員に対する接し方を、上司自らが変えることによって解決する問題は多い」と指摘する。

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