放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』新連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「人事異動」をテーマに送る。

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 テレビ局はこの時期になると人事異動でざわざわし始める。僕ら1970年代生まれ、40代前半~中盤の団ジュニ世代にとっては、人事異動が一番ピリつくかもしれない。というのも、団ジュニ世代にとっては大きな役職につく人が出始めるからだ。

 僕は放送作家というフリーの仕事をしながら、テレビ局の人間とお付き合いすることが多いので、人間関係が客観的に見えたりする。僕と同世代の人たちが入社した時から、この年になるまでずっと見れたりするからおもしろい。入社当初はテレビ作りにメラメラと闘志を燃やす。テレビの制作だとまずはAD業務。とてつもなくハードな仕事を経験していく。この数年でADとしてメキメキと頭角を現していく同世代もいれば、ADとして仕事ができず怒られバカにされて、入社したころのやる気が削がれていく同世代もいる。そしてディレクターになれたと思ったらもう30歳近く。優秀なADとしてディレクターになり上司から期待される者。ダメADからディレクターになり、バカにされる者。でもここからがおもしろいところで、優秀だったADほどディレクターになって伸びなかったりする。

 そしてダメなADがディレクターになって急に成長する場合も多い。会社で期待されてた奴と期待されてなかった奴が逆転現象を起こすのだ。会社に期待されるってすごい力で、どんなにダメだった奴でも一度「期待されること」を覚えると急に覚醒したりする。

 それぞれがディレクターになり番組作りをしていく。最初は下っ端のディレクターとして番組制作に加わり、そのうち、チーフディレクターとして自分がトップとして番組を作っていく。こうなると、尺度が会社から世間になる。どういうことか? 視聴率が全てになるからだ。作った番組が視聴率を取った、取らないで、その結果を受けて会社の期待度も変わる。ここでまた逆転現象が出たりする。

 
 番組が当たった者は、いくつかのコースに分かれる。ベタな2コースでいくと、30代中盤くらいから会社での出世を意識するタイプ。そして、出世になんか興味なく、おもしろいものを作り続けるという職人タイプ。職人タイプの人間に下の者は憧れる。が、40過ぎてくると、ここでまた変化が起きる。職人タイプの扱いづらい人間であっても、会社は社内的には出世のポジションを与えたりする。ここで、そのポストを拒むかと思いきや、意外と職人タイプの人ほど、心の中では誰かに認められたい気持ちや、出世欲があるのだということに気づくのだ。ずっと職人タイプだと思ってた人間が、出世の道を選び始めた時の周りのショックったらない。それだったら30代中盤から出世の道を見て、仕事をしてきた人のほうがピュアに見えてきたりするからだ。我々40代の団ジュニ世代が、会社で言うとそんなポジションになってくる。

 僕は出世を選ぶ道だって格好悪いとは思わない。自分の人生なんだから人にどう思われようと自分の欲に従って走ったっていいんじゃないかと思う。だって結局自分の人生、他人が責任なんか取ってくれないんだから。

週刊朝日  2017年6月9日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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