ニクソン氏(左)と交流があったというトランプ大統領 (c)朝日新聞社
ニクソン氏(左)と交流があったというトランプ大統領 (c)朝日新聞社

 就任後初めての中東・欧州外遊、シチリア・サミットでは温かい歓迎を受けたトランプ大統領だが、米国内ではロシアゲート疑惑で崖っぷちまで追い詰められている。自業自得とも言えるが、就任後最も深刻な危機に直面しているのだ。ジャーナリスの矢部武氏が取材した。

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 きっかけは5月9日、選挙戦中のトランプ陣営とロシア側の連携などについて捜査しているFBIのコミー長官を突然解任したことだ。トランプ大統領は当初、クリントン候補のメール問題対応の不公正さなどを解任理由としていたが、その後、ロシア疑惑の捜査を中止させるためだったことが明らかとなった。

 ニューヨーク・タイムズ紙によれば、大統領はコミー長官を解任した翌日、ロシアのラブロフ外相らと会談し、こう述べたという。

「FBI長官をクビにしたところだ。彼は頭がおかしいし、イカれた奴だ。ロシアの件でものすごいプレッシャーを受けていたが、解消された」(5月19日付)

 また、ロシア側との会談でトランプ大統領は、同盟国から提供された「イスラム国」のテロ計画に関する機密情報を漏らしたことも明らかになった。トランプ氏は、「すごい情報を持っている。毎日こういう情報の説明を受けている」と自慢げに話したというから驚きだ。それを漏らすことで、情報源が危険にさらされるかもしれないとは考えなかったのか。

 コミー前長官は就任直後のトランプ大統領に呼び出されて忠誠を求められ、非常に困惑していたという。

 実はコミー氏は大統領と会談した際の会話をメモ。その内容が後に報道されたことで、大統領がフリン前国家安全保障担当補佐官のロシア関連の捜査を中止するよう要請していたことも明らかとなった。

 大統領が「見逃してほしい。彼はいい人だ」と言うと、コミー氏は「たしかに彼はいい人だ」とだけ答えたという(5月17日のABCニュース)。

 コミー氏のメモが出たことで、政治的影響を受けない公正な捜査を求める声が議会や国民の間で高まった。ホワイトハウスは当然反対したが、司法省はその声を無視できないと判断し、特別検察官の任命に踏み切った。任命されたのはコミー氏の前任者で、2013年まで同職を務めたマラー元FBI長官だ。綿密な捜査で定評のあるマラー氏が特別検察官になったことで、トランプ大統領は更なる窮地に追い込まれることは間違いないだろう。

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