ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は復帰した葉月里緒奈の過去を振り返る。

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『葉月里緒菜』改め葉月里緒奈さんがどうやら帰ってきた模様です。ついぞその姿を見かけなくなって10余年。早くも『魔性の女復活!』『元祖炎上女優!』などと世間もザワつき始めています。私と同い年である葉月さんは、ティーンアイドル不作としても有名な75年組の中でも、内田有紀さんと並び数少ないスターアイドルでした。確かチョコか何かだったと思いますが、地下道を高速で闊歩しながら「あ、私の名前は葉月里緒菜。葉っぱに月と書いて葉月」と吐き捨てるように自己紹介するCMは、当時17歳のタメとしてかなり印象的でした。

 それにしても葉月さん、あのCMのインパクトのままその後も邁進され、魔性と呼ぶには綺麗過ぎる魅力で、女優というよりむしろ恋愛スナイパーとして活躍されたことは35歳以上であれば周知の事実。改めて今思い返してみると、ネットもなければワイドショーも控えめだった時代に、よくもあそこまでバッシングの嵐を巻き起こしたなと感服する次第です。年上既婚俳優と燃え盛った際には「奥さんがいても平気」と開き直り、その俳優夫婦を離婚に追い込んだ葉月さん。そして、今や日本が世界に誇るスター野球選手との熱愛では、ロスだかどこかのホテルに3日間ふたりで閉じ籠もっていたという驚異のフィジカルポテンシャルを見せつけてくれました。当時まだオリックスでプレーしていたその選手が好きだった私は、葉月さんとの衝撃的スキャンダルを目の当たりにし、「私には彼を3日間ホテルで骨抜きにする自信はない……」と途方に暮れたものです。

 なぜか女優としての作品の記憶がほとんどない葉月里緒菜という逸材ですが、ちょうど不倫や略奪愛が一刀両断になりつつあった時代の端境期の中で、疲弊していかせざるを得ない存在だったのかもしれません。ご本人は幸せな結婚生活を送っていたようですが。もう少し早く生まれていればもっと大きな女優になったでしょうし、あと10年遅ければ確実に沢尻エリカとの「別に」対決が観られたはずです。ただし、エリカ様の数百倍は肝が据わっていましたよ、あの頃の葉月は。

 やはりネット社会以前の巷というものは、拡散され集計された感情ではなく、より個人の念が漠然と集結していたので、『嫌われ者たち』の嫌われ度合いも半端なかったですし、それに対峙する戦闘度合いも今とは比べ物にならないぐらいだったと思います。松田聖子、石原真理子、石田ひかり、裕木奈江、葉月里緒菜……。女の敵になった女たちは、とにかくひたすら悠然としていて、したたかでふてぶてしくてカッコよかった。

 そんな葉月里緒奈は、何を思い立ったか現代にカムバックなわけですが、果たして彼女自身は分かっているのでしょうか。「葉月里緒菜」と聞いて、反射的に世間が何を期待してしまうかということを。今さらロハスな女優顔をされても、そうは問屋が卸しませんよ。だけど私は覚悟しています。かつて異彩を放った同い年の恋愛スナイパーが、現代社会で完全なる浦島太郎になっている姿を観る羽目になるであろうことは。そういう年齢になってしまったのです。できれば大谷翔平くん辺りに狙いを定めて、札幌のホテルで1週間ぐらい籠もって欲しいものですが。41歳・希望の星。間違っても『しくじり先生』には出ないでね。

週刊朝日 2017年6月2日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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