では、この二つの違いは何なのか。順天堂大学順天堂医院呼吸器内科教授の高橋和久医師はこう説明する。

「ニボルマブが抗がん剤などを使用した後に使う二次選択薬なのに対し、ペムブロリズマブは、初回治療薬として使うことができます」

 そもそも薬物治療を初回で選択するのは、ステージIVまで進行し手術が不可能な場合だが、このペムブロリズマブを初回で使用できるのは、さらに治療前の組織検査でPD-L1というがん細胞の表面に現れるたんぱくが、50%以上と大量に現れている人に限られる。

「適応となる人は検査を受ける人の25~30%程度ですが、13万人を超す肺がんの患者数から、ほかの治療が適応になる人などを除外して算定していっても、決して少なくない人が恩恵を受けられます」(高橋医師)

 この薬が初回から適応できれば、従来の抗がん剤による髪の毛の抜け落ちや吐き気、そして白血球が減少するなどの重篤な副作用を避けることができる。

 東京都在住の松岡由紀子さん(仮名・59歳)は15年、咳の症状が悪化していたため近所の病院で検査を受けたところ、左肺の入り口に腺がんができており、進行期のステージIVと診断された。腺がんは非喫煙者に起こりやすく、女性のほうが発症率が高い。

 同年4月、高橋医師を紹介され、当時治験中だったペムブロリズマブの説明を受けた。組織検査をしたところ、PD-L1が陽性だったため、この薬での治療を開始。5月から3週間に1度、点滴で投与したところ非常によく効き、わずか2カ月後のCT(コンピューター断層撮影)検査で、がんがほぼ消失していた。計25回、1年4カ月治療を受け、経過は良好だった。

 しかし16年9月、左の首のリンパ節に再発。今は次の治療に備え検査の結果を待っているところだという。

「ペムブロリズマブは使われ始めたばかりですから、効果判定にはもう少し時間の経過をみないと正確なところはわかりません。しかし松岡さんのように明らかに効果が表れている人は多くいます。延命には間違いなく貢献すると言えるでしょう」(同)

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