西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、今シーズン好調な阪神について昨年の広島を引き合いに出し解説する。

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 セ・リーグは阪神が首位争いの主導権を握っている。ゴールデンウィークだったか、広島を0対9からひっくり返した試合は毎回できるわけではないが、最後の1アウトまで選手が集中していることがわかる。1~2点差ならわからないぞという意識がチーム全体に出ていると感じる。

「この強さは本物か」という議論によくなるけど、「本物にしなくちゃいけない過程である」というのが正解だろうか。強さとは優勝しなければ身につかない。優勝すれば、それが当たり前のこととなり、常に優勝するために何が必要かを個々の選手が考えられるようになる。そうしてチームの基礎値は上がる。

 一つ言えるのは、今年の阪神の雰囲気は昨年の広島に共通している部分がある。昨年の広島は鈴木誠也という若手が台頭し、投打の精神的支柱の黒田、新井が若手に負けまいと先頭に立った。春、梅雨の時期を越えて、夏には選手全員が自信を持って戦えるようになっていた。今、阪神は同じ過程を歩んでいる。

 中谷、北條、梅野ら、金本監督が昨年から我慢して起用してきた選手が自信を持ってプレーしている。それこそ、前述した9点差逆転だって、ミスした若手がバットで取り返そうと必死になった結果と言えよう。自分の特長は何か、多少のミスがあっても下を向かずに、次のプレーに集中する。金本監督が選手を我慢して使ってきた昨年からの積み重ねがいい方向に向いている。福留、鳥谷、FAで加入した糸井からは「若い選手に負けていられない」という強い意思を感じるよね。

 
 世代交代を進めていく上で重要なことは「若手の突き上げとベテランの意地」の相乗効果である。世代交代期だから、負けていい年だ、などと考えると負のスパイラルにはまる。常勝軍団といわれるチームは、若手の台頭とベテランの意地がチームの推進力に変わることを知っている。私が西武に在籍した80年代。工藤公康や渡辺久信といった若い投手に私は負けるわけにいかなかった。完投数を競ったことだってある。投打の違いは別として、同じような雰囲気を阪神には感じるよね。

 開幕から2カ月近くが経過し、他球団にもデータが入ってきている。その中で首位争いをしているのだから、今の自分たちの戦いを疑わなくていい。もう春の珍事は過ぎた。ここからは多少の連敗があっても、自分たちの戦いを信じることだ。優勝するチームは、自分たちの戦いに絶対の自信を持っている。阪神の若い選手たちは、一つずつ自信を積み重ねていく過程にある。同じことはパ・リーグの楽天にも言えるよね。

 阪神は2008年に巨人に最大13ゲーム差をひっくり返される「メークレジェンド」に見舞われた。15年も8月に首位に立ちながら、9月に入って失速した。だが、そんな過去を考える必要はない。白星を積み重ねている選手たちが「この野球をすれば勝てる」と信じ続けることだ。

 巨人はベテランの阿部が頑張っているけど、若手の突き上げという点で乏しい。若手の突き上げがない分、FAで戦力補強をしたのだろうが、これから夏場以降にFA移籍組が戦力に加わった時に広島、阪神に迫れるか。興味深い。

週刊朝日  2017年6月2日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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