さらに、グルメブームやSNSの普及によって、年々立派で凝ったおかずが求められる傾向にもある。他人の“盛った”食卓を目にする機会も多い。

 ただ土井さんいわく、そうした傾向は、“ハレ(特別の日)”と“ケ(日常)”の混同だという。土井さんは多くの人が今、「ハレの価値観をケの食卓に持ち込んでいる」と指摘する。

「日常と特別な日とをきちっと区別する感覚が失われています。“料理に手を掛ける=愛情の表れ”と誤解しているケースも少なくありません。家庭料理は、家族の心のよりどころ。だからこそ持続可能で、食べると安心できる、“ふつうのおいしさ”が大切なのです。ハレの料理は日常の食卓には必要ないのです」

 そこで今こそ、一汁一菜というわけだ。基本はご飯とみそ汁、塩気が足りなければ、ご飯にみそや漬物を添えたらいい。それくらい気負わないスタイルが日常には適しているという。確かに、これならインスタント食品を利用した調理と変わらない時間で、あっという間にできてしまう。

「一汁一菜は決して“手抜き”料理ではありません。あくまで元気で健康でいるために受け継がれてきた、和食の伝統です。現代の食事は応用ばかりに目を向けがちですが、まずは土台をしっかり作ることから始めましょう」

 では実践に移ろう。土井さんが「一汁一菜の柱」と話すみそ汁はトーストを投入したり、ベーコンやトマトが入っていたりと、具材選びも自由。ご飯の上に豆腐を載せて湯を注いだものに、みそを溶かしながら食べ進めるというスタイルだってある。

「みそ汁は工夫次第で“優秀なおかず”にもなる。ご飯がパンやパスタに変わっても、みそ汁とセットにすれば一汁一菜。みそ汁とパンと言うと驚く人もいますが、ご年配の方が意外と発想が柔軟で、みそ汁にトーストや牛乳を入れたりしている。外国料理をそのまままねるのではなく、一汁一菜の中に外国文化を取り入れるという考え方です」

 みそ汁は塩分過多になり、健康によくないという指摘もあるが、土井さんはこう首を振る。

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