ジャーナリストの田原総一朗氏は、皇室典範の改正が実現しなかった背景に女系天皇や女性宮家に否定的な論者の存在があったと指摘する。

*  *  *

 秋篠宮家の長女・眞子さまが、婚約に向けて準備を進めていることが明らかにされた。相手は、国際基督教大学時代の同級生だった小室圭さんだという。おめでたい話だ。

 だが、眞子さまは結婚すると皇籍を離脱することになる。若い世代の女性皇族は愛子さまを含め6人となるが、いずれも近い将来結婚されるはずで、悠仁さまが即位するころには宮家がなくなり、皇室活動ができなくなる恐れがある。

 2012年、民主党の野田佳彦首相が宮家の消滅を心配し、女性皇族が結婚後も皇室に残れるように、女性宮家の創設を軸にした論点整理を取りまとめた。しかし、同年12月に安倍首相が首相に返り咲いた後は、議論が停滞してしまっている。

 女性宮家の問題だけではない。昨年の8月8日、天皇が国民へのビデオメッセージで、象徴天皇としての歩みに強い自覚を示された。

「日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました」

「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じて来ました」

 そして、高齢により「象徴の務め」を果たせなくなることを理由に退位の意向を示されたのである。

 メッセージを聞く限り天皇が法改正による譲位を望まれていることは明らかだが、政府は「有識者会議」を発足させる前から一代限りの特例法でいく方針を決めていたようだ。「有識者会議」が招いたヒアリングメンバーには譲位そのものを否定する論者が少なからずいた。天皇の役割は「お祈り」さえしていればよい、というのだ。天皇が沖縄やサイパン、ペリリュー島など太平洋戦争の激戦地に出向き、亡くなった兵士たちの霊を慰めることに反対なのだ。

 天皇は父である昭和天皇から、昭和の戦争について、時にその責任について聞かされ、それを償う気持ちを固く持っておられるはずだ。そして、あのような戦争を二度としてはならないと心に定め、平和憲法を守らなければならないと強く思っているのであろう。それに対し、保守右派の論客や政治家は強い反発を覚えている。彼らは昭和の戦争を正しいととらえ、だから靖国神社に参拝しない天皇が腹立たしい。もちろん、天皇はそうした保守右派の敵意はわかった上で、あえて無理に無理を重ねて各激戦地への鎮魂の旅を続けている。それが象徴天皇としての務めだと信じて、戦い続けているのだ。

 
 保守右派が皇室典範の改正を認めようとしないのは、女性・女系天皇、そして女性宮家に反対だからだ。

 だが、明治以前は女性天皇が8人、10代存在していたのだ。明治以後、男性のみとなったのは天皇が大元帥、つまり軍の最高位となったためで、明治以後の軍隊には女性は参加できなかった。自衛隊には女性も少なからず参加している。

 また、皇統は完全な男系だというが、天皇家の祖先である天照大神は、あきらかに女性だ。神話ではなく実在した可能性が高い雄略天皇以後は男系だが、天皇以外でも摂政関白、太政大臣、征夷大将軍など、国家権力のトップは常に男性で、これは男尊女卑の象徴である。つまり女性宮家を認めないのは男尊女卑の一環であり、男女同権の時代に、悪しき伝統は改めるべきだ。安倍首相は応援勢力である保守右派が離脱するのを過剰に恐れているのではないか。

週刊朝日  2017年6月2日号

著者プロフィールを見る
田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

田原総一朗の記事一覧はこちら