就任初年度の昨シーズンは期待を裏切った金本監督だが、今年は評価を上げているようだ (c)朝日新聞社
就任初年度の昨シーズンは期待を裏切った金本監督だが、今年は評価を上げているようだ (c)朝日新聞社

 今年の阪神タイガースは強い、と言えるのか。エラーは33個と12球団一多い(5月19日現在。以下、数字は同時点)。それでもセ・リーグ首位(38試合消化して24勝14敗)で、何と貯金は10もある……強そうではないのに勝っているのが今の阪神タイガースの印象だ。取材を重ねると、三つの要因が見えてきた。

「ようやく昭和から平成の野球になりましたよ」

 何とも微妙な言い方をしたのは東京のベテラン野球記者。平成になって30年近くたつが……。

「それぐらい時間が止まってたんじゃないですか。最近まで阪神には代打の“神様”と言われるような選手がいました。一昨年に引退した関本賢太郎や、去年までの新井良太や狩野恵輔、さかのぼれば川藤幸三や八木裕……彼らが登場すると歌舞伎の人気役者が見えを切る場面のように盛り上がり、ファンもマスコミも神様扱いでした」(ベテラン野球記者)

 そういう選手がいるのはプロならでは。しかし、甲子園のスタンドの声援に起用を任せている感が否めず、その場面でベストな選手なのか疑問だったという。

「そういうことが今年はなく、金本知憲監督が阪神ならではの悪癖を取り払った感じがします」(同)

 ファンに“忖度”した選手起用ではなく、当たり前の、勝つための選手起用ということが、まず一つ目。

 二つ目は、金本監督の采配の妙。選手起用に競争原理を働かせたことだ。実は、一塁手と二塁手、ショート、ライトの四つのポジションのレギュラーが固まっていない。例えばショート。開幕時のレギュラーは北條史也で、前任者の鳥谷敬はサードに回った。その後、打撃不振の北條はスタメン落ち。16日の中日戦で去年7月以来10カ月ぶりに大和が起用され、活躍して勝利した。

「ただ、四つのポジションを競う顔ぶれは固定されているんです。セカンドとショートでは北條、大和、上本博紀、糸原健斗、ファーストとライトでは原口文仁、高山俊、中谷将大。その7人は出場機会を求めて必死です」(虎番記者)

 金本監督は基本的に、右投手には左打者、左投手には右打者というオーソドックスな起用をするので、活躍しても次に出られない、ということもあるという。

「結果的に危機感をあおって選手の力を引き出している。『帯に短し襷に長し』の戦力を起用法で補っているのです」(同)

 もっとも、普通はレギュラーが固定できないようなチームは勝てない。勝てているのは「他が弱いから」と自嘲するのはプロ野球OBの他球団関係者だ。これが三つ目だ。

「阪神の強さは相対的なもの。セの他球団、特に巨人がパッとしない。阪神にとって本当に怖いのは、広島の投手が整備された時です」(他球団関係者)

週刊朝日 2017年6月2日号