作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は「慰安婦」問題について韓国では捉え方が変わってきているという。

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 文在寅大統領誕生の報道が流れたとたん、韓国に暮らす友人から「私たちは勝ちました!」とメールがきた。昨年11月から、ほぼ毎週のように光化門広場でのキャンドル集会に参加していた彼女の誇らしげな笑顔が見えるようで、私も嬉しい。民主主義を勝ち取ってきた国の人が知る、勝利の美酒。ああ、私もその酒をいつかぜひ、飲んでみたいものだ。

 文在寅大統領は公約で「慰安婦」問題に関する「日韓合意」の再交渉を掲げている。日本のメディアをみると、「日韓合意」が覆されることの懸念を報じているものが目立つ。先日もNHKのニュースで「国家間の約束を翻すことは、韓国が国際社会からの信用を失うことだ」などと解説している人がいた。本当に、そうなのだろうか。

 日本では今、「慰安婦」問題というと、「少女像」を撤去するとかしないとか、「反日」か「親日」かとか、そういうレベルでの話が主流のようだ。一方、韓国をみていると、これまでこの問題に関心を持っていなかった若い世代が積極的に「慰安婦」問題に関わり始めている。実際、釜山の日本総領事館前の「少女像」は、大学生たちが中心になって建てたものだ。

 また、去年から「慰安婦」を描く映画の上映が続いている。私は「雪道」という映画を見たのだけど、これが素晴らしかった。元「慰安婦」のおばあさんと、高校生の女の子が出会う現代の物語。韓国でも今、未成年の女性が性搾取の対象にされる現実がある。時代は違っても、女たちに向けられる暴力、差別の構造は変わらない。世代と時代を超えて、女たちが出会う物語を若い女性監督が描いた。

 そんなふうに「慰安婦」問題を、「日韓政治問題」ではなく「女の人権問題」として捉えなおそうとしている韓国の市民社会の空気と、今の日本の空気があまりにも違いすぎるのを感じる。このままでは和解どころか、溝が深まるだけだ。

 
 時代の空気は刻々と変わる。合意した、10億円振り込んだ、など既成事実を性急にも見えるスピードで積み重ねた「日韓合意」を、今、丁寧に振り返る必要があるのかもしれない。

 考えてみれば、安倍さんと朴槿恵は似ている。誰もが知る有名な政治一家の子供として育ち、周りに反対意見を言う人をおかず、友人を配置したがる。朴槿恵は「慰安婦」問題を日韓関係に利用しようとしたけれど、人権問題として関心を示したことはなく、安倍さんといえば「慰安婦」問題そのものをずっと否定し続けようとしてきた人だ。そして朴槿恵は友だちとの関係で躓(つまず)いたが、それも同じ。というか、まだ安倍さんが躓いてるように見えないのが、日本の民主主義が硬直し、身動き取れなくなっている現実を表しているのかもしれない。

 これを書いている最中、「投票した人が当選して嬉しい。南北統一への希望がみえる」と別の友からメールがきた。トップが代われば、未来が変わる。希望の色が変わるのだと思う。私も日本に、希望を持ちたい。

週刊朝日  2017年5月26日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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