西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、投手分業時代のエースに発破をかける。

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 プロ野球も開幕から1カ月以上がたった。そしてゴールデンウィークもファンの方たちの力が、野球界を盛り上げてくれたと思う。どの球場も満員に近い状態で、プレーする選手は勇気づけられたはずだ。

 私が注目していたのは巨人の菅野智之だ。3試合連続完封勝利。5月9日の阪神戦(東京ドーム)では4試合連続完封はならなかったけど、心から拍手を送りたい。近年、これほどまでに1試合を「一人で投げきる!」という気迫を見せる投手は少なくなっていたから。本当にうれしかった。

 投手分業の時代を批判しているわけではない。近年は打者のレベルが上がり、投手も力を適度に抜きながら抑えられるほど甘い時代ではなくなっている。100~120球で目いっぱい投げて、後は球威のある救援陣に託すというのは、勝つためには自然のことだ。ただ、先発投手がそのことに甘えるのは別だ。特に球界を代表する投手を目指しているエースはいま一度、見つめ直してほしいよね。

 最初から100球から120球でいいと考えるか、1試合を投げきるというマネジメントをするかは大きく違う。ペース配分、打者との3巡目以降の駆け引き、ひいては球数を減らすための1球で仕留める技術などは、1試合を投げきったものしか経験できない。スタミナにしたって、100球超えて一番厳しいところで、その試合の一番いい球を投げられるだけの体力を身につける必要がある。先発として完投をあきらめた時点で、成長は止まることになる。

 エース投手はその球団で一番良い投手の称号でもある。つまり、その投手が降板した後は、力が落ちる投手が出ていくことになる。それぐらい圧倒的な存在になれば、試合の勝敗が決するまで、監督は代えることはしなくなる。13年にシーズン24勝0敗で乗り切った田中(現ヤンキース)のように、である。

 
 そして、そういった投手を目指すのなら、制球力重視のセットポジションはやめたほうがいい。ワインドアップにしろ、ノーワインドアップにしろ、体全体を使ってボールを投げることを考えるべきだ。静止状態から足を上げて腕を振るセットポジションは、圧倒的に肩、ひじへの負担をかけることは以前にも指摘したとおりである。完投という目標を設定することで、ロスのない体の使い方も考えるようになるはずだ。

 何でもそうだが、自分に制限をかけてしまうと、その範囲内でしか動けなくなる。目標と現実の距離感を知ることは大事だが、究極の目標設定は大きくていい。そこに向かって日々の努力があるし、スケールの大きい考え方をしなければ、しょせん、そこまでの選手にしかならない。だから、各球団のエースは「全試合完投」を目指してほしい。菅野だけでなく、パでいえば則本(楽天)、金子(オリックス)、千賀(ソフトバンク)などは、少なくともそう思ってほしい。

「先発投手は白星を制御できない」という言葉も耳にする。厳格な球数制限のある大リーグなら、それはわかる。だが、日本は130球前後まで投げさせてもらえる。もし0-0で降板したら、「援護点なく不運だった」と考えるか、「打線にリズムを生むことができなかった」と考えるか。意識付け一つで、何事も変わってくる。

週刊朝日  2017年5月26日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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